坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

「人と関わりたい」という思い~小池田マヤ『聖☆高校生』

f:id:sakamotoakirax:20140720212923j:plainレイプ、SM、ゲイ、暴力…『聖☆高校生』はアブノーマルなセックスとバイオレンスに満ちており、小池田氏の作品の中で、唯一ブラックテイストなものとなっている。そのセックスとバイオレンスの激しさ、人の心の闇を深く描く様は、ストーリーが進むにつれてカタストロフィを予感させていく。
小池田作品中最も人気の高いこの『聖☆高校生』だが、私はカタストロフィへの予感が強すぎて、ラストがカタストロフィを回避したように思えて、長いこと好きになれなかった。読者にどのようなラストを予感させ、その予感にどう答えるか、またはどう裏切るかは、作品の読後感に非常に影響を与える。カタストロフィの回避は、私には逃げに見えたのだ。
しかし私は、激しさの奥にあるものを読み取れていなかった。激しさは、人と深く関わりたいという欲求から生じていた。「人と関わりたい」という、恋愛の範疇をも越えた欲求を読み取った時、そのラストも腑に落ちた。「人と関わりたい」欲求が、人を破滅させるラストになるはずがない。
しかし、「人と関わりたい」という思いからの行為が、人のためになることもまずないのである。『聖☆高校生』が、主人公・神保聖の成長記の形式を採っているのも、そのためである。

神保聖はいじめから逃げて隠れていたところ、美術非常勤講師・美園が学生を誘惑する現場を目撃する。聖は美園の行為を黙認し、聖と美園は親しくなっていく。
一方、聖は幼馴染みの立川鮎子が好きだが、鮎子は同じ幼馴染みの守と付き合っている。しかし美園が守を誘惑したことで、守の気持ちが美園に傾き、鮎子はフラれる。
幼馴染みの絆が壊れていくのを防ぐには、美園がいなくなればいいと、聖は考える。そして美園の行為を学校にバラし、美園は講師を辞めさせられる。しかし鮎子と守の関係は元に戻らず、成り行きから、聖は鮎子をレイプしてしまう。さらに鮎子が妊娠したかもしれないと知り、聖は罪悪感から逃げ出し、荒れた歌舞伎町に棲みつく…

聖の「人と関わりたい」思いは、独りよがりである。しかし歌舞伎町での経験で、聖は成長する。
「人と関わりたい」という聖の思いは変わらない。しかし相手の立場に立って考えるほど、聖は何もできることがないことを思いしる。そしてその後経験を経て、ついに聖は能動的に関わることで、人を救うことに成功する。まさにヒューマニズムの体現である。聖だけでなく、登場人物の全てが人と関わることを求め激しく人とぶつかっていく。「大切に思う人と会う事以外に人生に楽しい事なんかない」という言葉がこの作品にある。寂しい言葉だが、これが多くの人にとっての真実だと思わせる説得力が、この作品にはある。

小池田氏は『聖☆高校生』の後、『不思議くんjam』『CGH!』『家政婦さんシリーズ』など、明るさを保ちながら、重いテーマを扱った作品を書いていく。『聖☆高校生』は、小池田氏の成長を見ていく上で、重要な作品である。