坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

私の擬装請負体験①

現在、労働者派遣法改正案の審議が国会で行われている。
派遣可能期限を一部撤廃する方向での改正が決まった場合どうなるかを考えるにあたり、私が約十年前に巻き込まれた擬装請負について語ることも、ひとつの意味があると思う。

私が巻き込まれた擬装請負がどのようなものだったかを語る前に、言うべきことが三つある。
ひとつは、私は時給で1000円前後の、製造業の会社を選んで派遣されていたことである。
そのような会社を選ぶと、だいたい社風が共通してくる。
時給1000円前後の給料が出る製造業の会社は製品単価が高いため、あくせくする必要がなく、のんびりしている会社が多い。もっとも私は、ほとんどがきつい部署に配属されてきたが。
そのため管理職は、派遣社員を差別しない。平社員には派遣社員に差別的な態度を取る者もいるが、だからこそ管理職に昇格できないという風潮が、大体の会社にはある。
擬装請負というと、労働基準法労働安全衛生法が守られていないというイメージがあるが、今私が述べたように、労働基準法労働安全衛生法を適用しないために擬装請負をすれば、差別になってしまう。そのような差別がない会社で、擬装請負が行われているのである。

ふたつ目は、私の親は、法律に詳しくなってはいけないと子供に教える親だったことだ。
私と同じ世代なら、私のような育てられ方を受ける子供がいるのを理解できるだろうが、若い人達にどれだけ、私のような育てられ方をする者のことが理解できるかわからない。
しかし、私が巻き込まれた擬装請負の経緯に、私のキャラクターも関連してくるので、一応触れておく。
三つ目も私のキャラクターに関連することで、私は、ひとつの会社で長く勤めることに価値があると親に教え込まれ、くびになったりすれば、理由にかかわらず親の小言をもらう環境で育ってきた。
これから語る話は、私が会社に少しでも長く勤めようとした結果起こったことである。読者の方々は、「何でそんな会社、自分で辞めようと思わないの?」と思うことも多いだろうが、私には「自分から辞める」という選択がないのである。

私が派遣されたAグループのB社は、我々派遣に請負だと説明していた。敢えて法律違反を告げていたのである。
そのようにする理由も、理解できる。
「こちらが擬装請負をしているのは正直に語るから、君達派遣社員に不当なことはしないよ」
という、暗に込められたメッセージがあった。
実際正社員は、派遣に不当なことをしなかった。だから当時、擬装請負に不満は無かった。

問題は、配属された部署にあった。
部署Cの正社員Dはかなり問題児で、配属されて間もない私を、仕事の手順もわかっていないのにこきつかおうとし、すぐ怒った。
仕事がわからないうちにこき使われると、辛いのである。
しかも時々話がわからない。
「芯を出せ!!」
と言われて、
(芯って何だ?)
と思い、聞き返しても怒られるだけだとわかっていたので、肉体的、精神的に疲労し続けた。(「芯を出せ」とは、「平行にしろ」という意味らしい)
しかしもっと問題だったのは、同じ部署で働いていた、先輩の派遣社員Eである。
この派遣社員Eが、D以上に私を怒鳴りつけてくる。質問しても答えないこともたびたびあった。
しかも一週間も経たないうちに、私の悪口を周囲に言いふらしている。
「あいつは使えねえ!!」
いくら何でも、批判が早すぎる。
(Eは、俺を辞めさせようとしている…?)
私の中に、疑念が広がった。
一ヶ月ほどして、部署Cに新しい人が入ってきたが、その人は2日でEにキレた。
すぐに派遣のリーダーを交えての話し合いになり、Eに同僚への態度を改善させることで決着がついた。
「態度を改善」と言っても、一度悪化した関係まで良くなりはしない。Eは新人と話さなくなった。
代わりに、Eは私頻繁に話しかけるようになった。しかもニコニコと笑いながら、常に冗談を言って、である。
派遣社員Eは、正社員Dと一番仲良くしている。
(ははあ、こいつはこういう奴か…)
私は、Eを全く信用しなくなった。
新人は間もなく体調不良で辞めたが、私とEの関係は、しばらくの間良好だった。

派遣社員Eは私より一回り以上年上で、元は寿司職人か何かで、自分の店も持っていたらしい。
Eには、職人らしい偏屈なところがあった。
B社の人達は、そんなEの偏屈なところも、職人らしさとして好意的に見ていた。実際、Eの正確な仕事ぶりには定評があった。
ある日、B社の社員の人が、
「昔やってたんなら、寿司作って見ればいいのに」
と、Eに言った。すると、
「いやあ、自分が失敗したことは、やりたくないんですよ」
Eは答えた。
(ーーはて?)
私は疑問を持った。
(普段から職人気質を表に出してるけど、寿司職人だったことにプライド持っていないんだろうか?)
僅かに、Eを職人として見ることに疑問を持った。

当時私が所属していた派遣会社は、悪名高いクリスタルグループである。

そのクリスタルグループ内で転属があり、B社の派遣社員は1人の営業所長Fの下に就くことになった。
部署Cで、私が仕事を覚えた頃から、部署Cが少しずつ変化してきた。
部署Cは仕事は月曜から土曜までで、日曜は休みだが、月曜から土曜までの間に一日、好きな日に休みを入れられるようになっていた。
派遣社員Eが休みの日の次の日、正社員Dは休みを入れていた。私とDの二人で作業をする日、Dは必ず、その日にやるべき仕事を残していった。
翌日、派遣社員Eが、昨日の残りの仕事を見る。
朝は、仕事の立ち上げと、昨日の残り仕事の片付けに逐われる。それはEの仕事で、仕事を覚えたての私には、Eを手伝う余裕がなかった。
そんなことが続いて、Eは朝、私があいさつしても返事をしないがあったりした。

正社員Gは、正社員Dと仲が悪く、朝礼などで喧嘩になることもしばしばあった。
正社員Gは役職にはついていなかったが、指揮系統上はDの上にいた。
(何でだろう?)
少し不思議だったが、Gは管理職を勤める力量がなかったために、役職を降ろされたとのことだった。
私とGの関係は良好だった。
ある日、正社員Gと派遣社員Eが喧嘩をした。正社員GとDでなく、派遣社員Eと正社員Gの喧嘩である。
「Gは、俺達に仕事を押し付けてばかりいる」
と、Eは言った。
(そんなもんかな)
私はそう思っただけだった。役職がないとはいえ、部署Cから離れた事務所で、基本的に違う仕事をしている正社員Gが、部署Cの仕事をどれだけするべきかなど、私にはわからない。
それに、「押し付けた」という仕事もそんなに多いものではなく、部署Cには、Gが指示した仕事をする余裕は充分にあると思った。
しかし、私は策士である。
私は、ちょっとしたことで雰囲気が悪化する部署Cを、何とかしなければならないと思っていた。DとEの悪感情が私に降りかかってきたら、私はたちまちくびにされてしまう。
そこで思い出したのは、大学時代にサークルで聞いた、サークルのまとめ方である。
そのサークルのまとめ方とは、スケープゴートを造ることだった。
(これだ!!)
私は思った。まともな方法で、部署Cが心をひとつにできるはずがない。
(ならばGさんとうちらの関係が悪くなっても、作業に影響はないしな)
翌日から、朝礼で私も、Gにからんでいった。
「ーーあんなのほっとけよ」
Eはニコニコして言った。
(成功だ)
私とEは再び仲良くなり、仕事が終わった後、休憩室で語り合った。
話すことは当然、仕事の話である。
「…正社員って言ってもみんなすごいわけじゃないんですから、正社員追い抜く気でやればいいんすよ」
私が言うと、
「…お前のその実力でか」
と、Eが言った。
「ーーえ?」
Eは話を変え、そのままなごやかに、私とEは別れた。
翌日から、またEは私にあいさつを返さなくなった。
(ーー何で?)
私は混乱し、何日も考えた。
そして、
(ーーああ、あれか!!)
と思い当たったのは、
「正社員追い抜く気でやればいいんすよ」
と言った、私の言葉だった。
(Eは、俺が向上心を持つのも不快なんだ。それでちょっとした波風で、俺をくびにしようとするーー駄目だ。Eと一緒に仕事を続けていくのは不可能だ。
私は、Eと争う決意をした。
(つづく)

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