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坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

私の擬装請負体験③

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

(このままでは2000万円の改善提案はできなくなってしまう)
そう思った私は、策を考えた。
部署Cは、I班に属する。
私はI班の副主任Jのところに行った。副主任Jとは気が合うところがあり、わりと仲良くやっていた。
「…辞めたいですよ」
私は言った。本心ではない。しかし副主任Jは慌てた。
「何が不満か言え。そうだ、紙に書け」
(今からか)
面倒だと思った。なぜなら翌日からゴールデンウィークだったからだ。一日しか書く時間がない。
昼休みを利用して書こうとしたが、考えがまとまらない。
(ならいっそのこと、ゴールデンウィーク中に書けば)
そう思って副主任Jに伝え、家に帰って原稿用紙を取り出した。
「B社は、人を大切にする会社だと思います。B社が人をより大切にする会社になるために、この改革案を提案します」
書き出しはこうである。その後、
派遣社員は、将来に希望を持っていません。派遣社員に、嘱託、正社員になれるように希望を持たせるべきです」
派遣社員にも改善提案を出すように求めるべきです」
「職人主義を無くし、誰がやっても同じ製品ができるシステムを作るべきです」
「人の悪口は極力控えるべきです」
など、様々なことを書いたが、実は書いたことのほとんどはE対策である。つまり私はEを、
派遣社員が正社員になること」を望まず、
派遣社員が改善提案を出すこと」も望まず、
「職人主義的に振る舞って」システム構築を阻害し、失敗した者の悪口を言って辞めさせようとする人物だと思っていたわけだ。
(Eなんざ暗くて臭い便所虫みたいなやつだ。あんな後ろ向きなやつは、明るく前向きに追い出してやらあ!!)
と思いながら書き続けた。はたしてこの考えが前向きなのかどうか。
他に、
「命令は上意下達、役職順に上から下げていき、下から意向を上げる場合は、役職順に上げていきます」
など、ガチガチの組織論を書いたが、これは正社員Gが、正社員Dを通さずに、直接私に指示を出すようなことを批判したものである。
このような指示を出されると、Dから見て私が独断で動いたことになり、私が怒られたりする。
もうひとつの問題は現場が地外法権になっていることで、管理職の指示が現場ではいくらでも無視され、結局管理職も、現場の地外法権を許している。
この状況を変えようとする者が、権限のない私のような者にリスクを負わせようとする態度を批判したのである。
また、
「人事は適材適所を目指すべきです。どれほど適材適所を目指しても、完璧にならないのが人事というものです」
と書いたが、この抽象的な文は、後々の複線にするためのものである。
ゴールデンウィークの間に原稿用紙20枚くらいを書いたが、まだ書き足りなかった。そこでそれまで書いた分を『I班改革案』として先に提出し、残りを『部署C改革案』として、ゴールデンウィーク後も書き続けた。
二、三日して、副主任Jが声をかけてきた。
「ーー坂本の文章を読んだ。二度読んだ。甘いところはあると思うが…もう一度、読んでみるつもりだ…」
(ーーそれほどのものだったか?)
私は少し驚いた。(一般的な組織論に過ぎないと思うが…)
それからしばらくして、副主任Jは、派遣社員が改善提案を出して採用された場合、その褒賞金を派遣社員に渡すと言い出した。
改善提案が採用された場合、褒賞金は改善効果によって違うが、最低でも500円貰えることになっていた。
しかし、改善提案の褒賞金は、班の積立て金に入れることになっていた。その積立て金を飲み会などで使う。それを今後は、派遣社員のみ、褒賞金を積立てに回さずに直接貰えることになったのである。
(悪くないけど、500円のために改善提案を出す人がいるかなぁ)
私はそう思っていたが、今にして思えば、正社員が露骨に派遣社員に、派遣先から直接雇用される期待を持たせるわけにはいかなかったのだろう。
その他、社内資格を取るための、派遣のための講習会を開いたりした。
(少しずつ、変わってきているのかな)
手応えあり、と感じた。

『部署C改革案』も提出した。
『部署C改革案』のキモは人事だった。
もともと、正社員Dは部署Cで多く問題を起こしているので、異動させようとしているという噂は、ちらほら耳に入っていた。その噂を前提にして書いたものだ。
「Dさんは問題ですが、派遣社員EさんはDさんを利用して、自分の立場を強めています。Eさんを部署Cに置き続けると、Dさんを部署Cから動かせなくなります。Eさんは、もっと体制が整っていて、指導力のある人のいる部署に異動させるべきです」
これはひとつの賭けだった。一派遣社員の身で、人事に口を出したのである。もし失敗すれば、自分が飛ばされる。
しかし『部署C改革案』は、副主任Jからクレームが入った。
実は部署Cでは、ゴム袋の使用限度は10回までと決まっていたのだが、どういう理由からか、ゴム袋を大抵は20回以上使っていた。
(それも、ゴム袋が破ける原因なんじゃないの?)
と思ってそのことを書いたのだが、副主任Jは「ゴム袋のことは書くな」と言ってきたのだ。
「こういった問題はどこにでもある。それを公にしないことで、俺達もまた守られている」
(そういう面はあるけど…しかしどういう理由でそうしているかもわからないことで、問題が起こってるんなら、表沙汰にした方がいいんじゃないのか?)
私は思ったが、以外な提案を、副主任Jはしてきた。
「K課長に話をしろ」
というのだ。B社の正社員はその時期、職場の様々な問題について、上司に話せる場を設けていたが、今回私にも話す機会を与えてくれるらしい。
(K課長か…成功すればいいが、聞いてもらえなければ間違いなく部署異動だな)
私は躊躇した。

その頃、派遣社員Eも動いていた。
作業場でのことである。
派遣社員Eは、私をじっと睨み付けていた。何か言ってくるわけでもなく、ただずっと睨み付けている。
段々、私も落ち着かなくなってきた。
そのうち、Eには連絡係という役職がついた。Eが所長Fのところに入り浸った成果が出てきたようだった。
しかしEは、私にだけは連絡をを回さなかった。そのため会合の時間と場所がわからず、会合に遅れたりした。
またある朝礼でのこと、
派遣社員Lさんから、改善提案の褒賞金500円を積み立て金に寄付して頂きました」
と、正社員Dが言った。
(わーすばらしいぱちぱちぱち~ってアホらし)
これで、副主任Jの苦心は水の泡になった。言ったのは正社員Dだが、Eが後ろで糸を引いていたのは明らかだった。

「すいませーん、パレット余ってませんか?」
隣の部署Mの人が来て言った。
「オ~持ってけ持ってけ!!」
正社員Dが気安く応じた。パレットの上に乗っているドラム缶をまとめて、パレットを開けていく。
(まずいな)
私は思った。
パレットとは、物を乗せる台である。大抵原材料や製品を乗せる。
部署Cでは、原材料が乗っている。つまりドラム缶に、金属の粉が入っている。
しかしこの粉が、全て同じではないのである。粉の形状によってグレード分けされている。
そしてひとつのパレットに、大抵ひとつのグレードが乗っている。しかしパレットを開けていくと、ひとつのパレットに複数のグレードが乗ることになる。
(問題が起こらなければいいが)
そして問題は起きた。2つのグレードが混ざってしまった。
私はすぐに正社員Jに相談し、副主任Jが対策を打ってくれた。副主任Jは、部署Cの作業手順の不備を強調し、作業前に必ず他の作業員がグレードを確認することになった。
しかし、私がロスを出したことに変わりはない。
しかも、正社員Dも派遣社員Eも、グレードの確認をあからさまにサボタージュした。
このままでは、Eがいつ動いて、私を追い出しにかかるかわからない。
「K課長と話をしろ」
再び、副主任Jが言ってきた。
私は、K課長に話をすることにした。
(つづく)

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