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坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

私の擬装請負体験④

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

K課長と話をしてわかったのは、実は部署Cでできた製品は、全て設計図通りに出来上がっているということだった。
ならばなぜ「形通りに出来上がらない」と言われていたかというと、競争のためだった。取引先がプラスアルファを求めているから、現状の方法で、作業員の努力により、少しでも多くの製品を作れないかという考えで、はっぱをかけられていたのだ。
(なんだよそれ…)
そして、二千万の改善提案のことを、K課長は知らなかった。さらに、二千万の改善提案は、派遣社員に企業秘密を教えることになるため、実行するとしても派遣社員は参画できないと説明された。
(おもいっきり罠に嵌められた気分だ)
これでは、私が二千万の改善提案実現に向けて動いてきた意味がない。
(二千万の改善提案に派遣社員が関われないなら、正社員で部署Cを固めてやれよ!!自分達で問題を解決しようとしないのに、派遣に押し付けようとするなよ!!)
さすがに腐った。
K課長とは他に、派遣社員Eについても話をした。とにかく落ち着かない、今回のグレード違いが混ざったのも、Eの態度にも原因があると。
「だから、それについては何にも言ってないじゃん」
K課長は言った。
(何にも言わないんだ…それはそれで問題だけど)
「うちらはクリスタルグループに対して、人事の要望はできるけど、決定権はないんだよ」
重ねて、K課長は言った。私は信じなかった。
(そりゃあ、請負の論理で言えばそうだろうけど、でも実際の指揮命令権はB社にあるんだから、そっちの思い通りになるんじゃね?)
と思ったが、最後までEをどうにかするとは言わなかった。Eの作業能力を買っているようだった。
(こりゃあ部署異動かな…)
などと思っていると、数日してF所長に呼ばれた。
所長室には、Eもいた。
「実は、この間のグレード混入について、K課長から苦情がきている」
嘘であるのは分かっていた。
「君の仕事はなっていない」
F所長は、とうとうと私の非を語り始めた。
ある状況において、ある種の上司が部下を解雇や部署異動させる場合、ひとつの特徴が表れる。
文句を長く垂れて、なかなか結論を言わないのである。この時もそうだった。
「Eさん、何か言うことはない?」
今度は、Eに話を振った。
「…話にならない」
Eが言った。
「…どういうところがですか?」
私は聞いた。
「…例えば、この間『胃に穴が開きますよ』って言ったな。あれなんかだ」
(は?)
何のことかわからなかった。少し考えて、
(ああ、あのことか!)
と、思い当たった。
ある日、正社員Dが何かの失敗をした時のことだった。
「Dさんは帰る時間が近づくと、早く帰りたくて失敗するんだよ。だから失敗しないように見てなきゃならないんだ」
と、その時Eが言った。それに対して、
「そんなこと考えてたら、胃に穴が開きますよ」
と、私が答えたのである。
「ちょっと待って下さいよ。あれは冗談ですよ。何ですか、ここは冗談も言えないんですか?」
私が言うと、Eは黙った。
(ーー何だ?こいつ)
しかしここでF所長が割って入り、他の私の小さな失敗を引っ張り出して来たので、私は話しづらくなった。
「その上Eさんとも上手くいってないんだって?それで仕事がうまくいくはずがないじゃないか。Eさんとうまくやってくださいよ。駄目なら他の部署に移ってもらうよ。他の会社でもいいよ。
(なるほど、それが狙いか)
そう思った私は、
「Eさんは、かけらも信用できません」
と言った。
そして、私は部署Lに異動することになった。同じI班の、部署Cの隣である。

部署Lに異動して、
「一週間に一度くらいの割合で、仕事の感想とか思ったこととかを文章にして提出するように」
と、F所長に言われた。
(はて?)
私は不審に思った。
(F所長なら俺の書いたものなんて読みたくないと思うんだが。これは誰か裏で糸を引いているな…)
それが誰かはわからないが、
(問題は、本音を書いたら所長が読みたくなくなってしまうことだ。手の内を明かしすぎるのも良くない。どうもつまらない仕事になりそうだな…)
部署Lでは、派遣社員のN氏が私の教育を担当した。N氏は、我々派遣社員全体のリーダーでもあった。
しかし、始めてなのでやはり失敗する。
一週間ほどして、またF所長に呼ばれた。
今度はそこに、派遣社員M君がいた。
M君は私より4、5歳年下だが、部署Lのサブリーダーで、切れ者でうまが会うために特に仲良くしていた。
「Nさん、坂本さんにちゃんと教育してる?」
というのが、二人の疑問だった。
「Mさんは、付きっきりで坂本さんを教えられるように、仕事量を減らしてあるんだよ。なのに何でこんなにトラブルが続くの?ちゃんと教育しているように、我々には見えないんだよ」
二人は言った。私が思ったのは、
(なぜ、M君が?)
ということだった。既に私は、Eをリーダーにするための下工作だと決めてかかっている。
(N氏がリーダーから引きずり下ろされても、N君にリーダーの座は回ってこない。所長はM君に、『N氏の後釜は君だ』とでも言っているのか?そんな約束裏切られるに決まってるんだが、M君は切れ者なのに、それがわからないんだろうか?)
もっとも、リーダー職は厳密には2つある。I班のリーダー(あくまで派遣のみ)と、部署Lのリーダーである。派遣が二人しかいない部署Cには、リーダーはいない。これまでは、2つのリーダー職をN氏が兼任していた。
ただ、リーダー職を二人で分掌する必要はない。無駄に役職を増やすようなもので、I班のリーダーの方が恐らく閑職になる。
(いや待てよ)
最近聞いた話を思い出した。
擬装請負の摘発が増えているため、役所の人が調査に来たときに、うまく言い逃れをできるようにしておかなければならないという話を聞いていたのである。役所の人は日中に来るので、派遣のリーダーは日勤者がいい。部署Cは日勤のみで、部署Lは交替制である。恐らくこれだと思った。
(上の事情はどうでもいい。とにかくN氏が降ろされないようにすることだ)
私は「Nさんの指導が不充分だとは思わない」と言い張った。
それからさらに数日すると、I班の派遣のみの集会があるとの連絡がきた。
集会は10日後で、「重要な話がある」とのことだった。
(来たな)
その集会で、Eがリーダーに任命されるのだろうと思った。そうなれば決定事項の通達になるので、覆せない。
(どうするか)
そうなったらくびを覚悟で、
「そんな馬鹿馬鹿しい決定には従えない」
と言って、席を立とうと思い、原を固めようとしていた。そうして悶々と数日を過ごす内に、
(ーーそうだ!!)
と、集会の前日になって思いついた。急いで原稿用紙を取り出し、机に向かった。
集会の日は夜勤だった。
徹夜で書き上げ、朝一に会社に行って書いたものを所長に渡し、家に戻って寝た。
起きて会社に行くと、
「今日の話は、大した話じゃないらしいからさ」
とN氏が話していた。
(あれ?『重要な話』なんじゃなかったっけ?)
話の刷り代わりに気付かないふりで、なに食わぬ顔で集会に出向いた。
集会では、所長がうにゃうにゃとなにやら話をした後、
「連絡係を設けたいと思います」
と言い、その係にEが任命された。
(あれ?Eは既に連絡係に任命されてなかったっけ?)
ニヤニヤしたいのをこらえて退出しようとすると、後ろで、
「Eさん」
と、Eを呼び止める所長の声が聞こえた。

私はEが二千万の改善提案を妨害したことを書いて、所長に渡したのである。
「Eさんは今までの所業を反省し、今務めている連絡係の職も辞すべきです」
と末尾に書いて。

それから私は一週間ほど空けて、所長室に行った
「私の言うことを聞いてくれませんでしたね」
所長に言うと、
「何のこと?」
所長は不機嫌そうに言った。
「Eさんをリーダーにしたじゃないですか」
「話を聞いてたの?リーダーにしたなんて一言も言ってない。Eさんはただの出欠確認の連絡係だ。私はEさんを連絡係に任命したんだ」
(かかったな)
私は反論せず、そのまま退出した。
(つづく)

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