坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

私の擬装請負体験⑨

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

〈給料日までヤバいんで、お金、貸してください。今携帯止められてますので、メールでお願いします〉
Mくんからメールがきた。
(携帯止まってもメールできるの?)
疑問がわいたが、そこは突っ込まずに
〈了解〉
とだけ返した。メールでやり取りして、会う時間と場所を決めた。
(どんな話になるんだろう)
待ち合わせ場所に向かいながら、私は考えた。
(金を借りる立場だから、今は下手に出ているが、会えば、喧嘩になるかもしれない)
私には、このように考える人間不信の感情がある。
(腕力では勝てんな)
そんなことを思いながら、目的地に着いた。
場所は衣料品店の駐車場である。
Mくんがきた。
「立ち話じゃ寒いから、車の中で話していい?」
季節は二月である。
「うん」
私は警戒しながら、Mくんを車の中に入れた。
「ーー坂本さんの気持ちわかるよ。やっぱり、あんな辞めさせられ方したら、坂本さんみたいに言うよな」
私の予想していないことを、Mくんは言った。
「俺は、坂本さんに味方するよ」
(ーーこいつ、本心か?)
と思ったが、
「ーーで、金の話だけどさ」
と、今日の本題に入った。「金額聞いてなかったからさ、給料日までの期間を考えて、五千円でいいと思うんだけど」
と、財布を取り出した。借金を(なるべく)取り引きの材料にしたくないという、私なりの配慮だった。ところが、
「いや、二万円で」
にやりと笑って、Mくんは言った。
「え~!!」
(何だ?こいつの開き直りっぷりは)
と思いながらも、素直に二万円を渡した。
「ーークリスタルグループが、R社に行こうとしてるってさ」
Mくんが言った。
「去年、関西で擬装請負が発覚して、クリスタルグループもすっかり規模が小さくなっちゃったんだ。それで名前変えて出直ししてるんだけど、B社でリストラされたクリスタルグループの社員を所長が連れて、R社に行くってさ」
(早すぎる、俺がR社に移ってから、半年も経ってない)
「OさんもEさんも、R社に行くって」
「Eさんも?」
「うん」
私は考えた。
(そういや、OさんもEにやられてるんだったな)
私は言った。
「Oさんには悪いけど、EをR社には来させないよ」
Mくんは、何も言わなかった。

その日は、飲みに行く日取りを決めて、別れた。
(こんなことってあるもんなんだ)
と、私は放心気味だった。
いやみなさん、確かに私は「離間の策」を仕掛けましたけど、プロの破壊工作員じゃないんですから、Mくんが寝返るとなんて見込んでなんかいませんよ。
たまたま策が当たっただけです。ただ強いて言えば、Mくんと私は、気質が似てるんです。

「ーー俺って人に可愛がられるんだよね。前にもEさんやPさんにおごってもらったことがあったし」
飲みの席で、Mくんは言った。
(まあ、確かに憎めないヤツだ)
席は窓側で、大通りを頻繁に車が往来している。
「ーー俺さ、最近思うんだよね。もし俺が死んだら、嫁や子供はどうなるんだろう。生命保険とかちゃんとおりるのかーー」
「生命保険入ってんの?」
「いや入ってないけどーー」
(なんじゃそら!!)
「そういうのってあるじゃん。俺はどうなってもいいけど、やっぱり子供は大事だよ。坂本さんにもそういうのはない?」
「ないね。俺に子供はいないしさ」
「結婚したいってのは?」
「無いね。というより、今はそういうのは考えられない。俺は、あくまで自分が大事なんだよ。自分が成り立って、始めて結婚とかが考えられるんだ」
「そうかーー俺はでき婚だからさ」
(やっぱりでき婚か)
Mくんに貸した金を考えれば、計画的な結婚でないのは容易に想像がついた。しかし関係のない話をしているようで、話が核心に迫っているのは感じられた。
「B社に戻りたいと思う?」
核心の話が、きた。
「思うよ。しかし派遣はもういい。嘱託以上でなきゃね」
「よし、じゃ俺が仲介するよ」
とMくんは言った。「俺は副班長とかもやって実績を挙げてきて、B社からも嘱託になるように話がきてるからさ、坂本さんがB社に入れるように仲介できるよ」
(なるほどこうきたか)
「ただし、俺を信用してくれたらだ。信用してくれなければ仲介しない」
(なるほど、そうきたか)
「じゃ、ひとつだけ聞かせて。君はEが、リーダーだったことを知っていた。あれだけの状況で、気づかないわけないんだ。これを聞かせてくれたら信用するよ」
「ーー俺は、O型だからさ」
「ぶっ!!」
飲みかけていたビールを吹き出した。
「人の気持ちがわからないから」
「ーーわかった。君を信用するよ」
もちろん、本当に信用したのではない。
(こいつは、この辺で勘弁してやるか)
と思ったのである。
「ちょっとトイレ」
Mくんは席を立った。そして戻ってきて、
「実は、今Eさんを呼んだんだ」
と言った。
(え~!!)
「やっぱりこういうのは、腹にためてないで、ちゃんと話し合うべきだと思うんだ。だからEさん来るけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。あいつ全然言葉使えねえからさ。来たらけちょんけちょんにしてやるよ」
と言ったが、もちろん心境は平静ではない。
(Mくんは思ったより青いところあるな。あいつは話し合う意味のあるヤツじゃないんだが)
「あ、来た」
「え?」
窓を見ると、Eが窓ガラス一面にぴったり張りついていた。
(わっ、フレディ登場。それにしてもなんちゅうセンスだ)
(つづく)


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