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坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

私の擬装請負体験⑫

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

私の部署に、女子Yが作業の予定表を置いて行く。
R社は古い工場らしく、いくつかの棟が集合して工場になっている。
女子Yは入口から入り、詰所に予定表を置く。入口付近は私の持ち場である。
詰所に予定表を置くと、女子Yは奥へと走っていく。毎日である。
(何で走るんだろう)
私の部署は、大量に油を使う。その油が常に床に散らばっている。
(危ないだろうに)
常に持ち場で働いている我々作業員が、滑って転びそうになる職場なのである。
そのうち、私が昼食を摂る食堂にも、女子Yが現れるようになった。
それまで大抵の女子の昼食を摂る場所は別の場所だった。私がいつも昼食を摂っている食堂にいる女子は、既婚者ばかりらしい。
もっとも女子Yはひとりで来ているのではない。女子Zと二人で来ている。女子Yもかわいいが、女子Zも美人である。
(ははあ…)
加えて、私が作業しているところに、女子Yが頻繁に現れるようになった。
(俺を嫌って走り回ってるってわけじゃないようだな)
女子Yが予定表を置いて向かうのは事務所だが、別に予定表を置いて、すぐ外に出て向かっても、事務所までの時間は変わらない。
作業場で毎日のように走られると、かなり目立つ。
「お前うちの会社じゃ、どういう女がタイプ?」
とVさんが聞いてきた。
「女子Yですね」
「そうか!応援するぞ。相談に乗ってやるよ、どうすればいいか教えてやろうか?」
(ちっ、こういう奴だったか)
こういう奴の言うことを聞いて、ろくなことはない。
「いや、いいですよ」
と言うと、案の定Vさんは不満そうな顔をした。
「でも相手の出方とかわからないだろ?」
と食い下がるので、
「目を見ればわかりますよ」
と、適当に答えた。

実はVさんとは、

派遣での上司との戦い方 - 坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

のAである。リンクを見たくない人のために内容を簡単に説明すると、私の金を巻き上げた上司から、心理戦で金を取り返した話である。煩雑になるので、ここではVさんで通す。なおこの時期に、Vさんとの金銭トラブルの最中でもあった。
「相手はお前より10歳も下だぞ、歳考えろよ!!」
と、手のひらを変えて言ってきた。
(うぜえ)
本格的に邪魔される前に何とかしようと、早めに女子Yに声をかけることにした。
「今度一緒にどこか行かない?」
女子Yのいる所に行って言うと、
「結構です」
と断られた。
「お前、女子Yに声かけたろ?」
と、どこから聞いてきたのか、Vさんが言ってきた。
(あーうぜえ!!早く何とかしないと)
と思ってまた女子Yに声をかけるが、また同じことの繰返し。そしてまたVさんに言われる。
その間、女子Yはまた私の回りを走り回った。走る度合いが激しくなってくる。
(あーもう耐えられねえ!!)
「Yさん、俺の回りで走り回るのやめて」
私は、予定表を置きに来た女子Yに言った。
それから二、三日、女子Yはおとなしくしていたが、また走り回る始めた。
(もっと強く釘をさす必要があるな)
私は昼食が終わった後、女子Yを捕まえて、
「Yさん、もうここにこないで」
と言った。
「…何でそんなこと言うんですか?」
女子Yが言った。
(うっ…)
私は言葉が出なくなって、そのまま女子Yに背を向けた。

(俺の誘い方もまずいんだろうけど、俺非モテだし、そんなうまい誘い方できねえし、やっぱ俺からもう声はかけられねえや)
「これでお前の恋も終わったな」
翌日の昼食時、Vさんが言った。そう言われると、私もそんな気がしてきた。
(女子Yはもう来ないかな?)
昼食時間になって、15分位経っている。
そこに、女子Yがきた。女子Zに引っ張れるようにして、いつもの席についた。
「……」
それまでしゃべり続けていたVさんが、急に黙った。場の雰囲気が、とたんに重くなった。
(へっ……)

それからまたしばらくの間、女子Yは私の回りを走らなくなった。
(こうなると、また寂しいもんだな)
ある日、予定表を置いた女子Yの背中を見ると、なんか背中がそわそわしている。
(おっ、これは……)
見ていると、女子Yは勢いよくよく走り出した。
私が笑いを噛み殺していると、
「何笑ってんだ?」
Vさんが聞いてきた。
私が女子Yが走ったことを話すと、
「あれ危ないよな。ぶつかるんじゃないかと……」
「……ぶわっはっはっはっ!!」
私が爆笑すると、Vさんは不機嫌になった。
「……まあ、スッ転んで頭打たないとわからないだろう」
とVさんは苦々しそうに言った。

「最近、風紀が乱れてます。気をつけてください」
と朝礼で、管理職の人が言った。
(多分、俺と女子Yのことだろう。はっきり言えばいいのに)
と思っていたらΘ係長が、
「坂本くん、女子Yにきついことを言ったりしないように」
と言ってきた。
「そんなことをしたら、私が不利になります」
「いいから!!とにかくきついことを言わないように」
Θ係長は、強引に押しきった。

(……一体なぜ女子Zは、女子Yを食堂に連れてくるんだ)
そう思いながら歩いていると、女子Zとすれ違った。
女子Zと目が合った。
(……ふーん、関わらない方がよさそうだな)
社内の男女関係に疲れて、外で女を作ろうと、コンビニの女の子に声をかけたりした。
しかし気力が続かず、店で会っても話さずにいたりするのを何度か繰り返すと、しばらくしてその女の子は辞めていた。
(ああ、駄目だ、俺は女子Yに意識させられ過ぎた)
大学時代の後輩にこの話をすると、
「絶対にその女に関わっちゃいけません」
とその後輩は言った。
(いや、女子Yは関わらないことで難を避けることはできなさそうだな)
と、私は思った。
(つづく)古代史、神話中心のブログ「人の言うことを聞くべからず」+もよろしくお願いします。