坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

私の擬装請負体験⑯

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

Aグループと戦う。
戦う方法、それは内部告発しかない。
それは、私にとってAグループに派遣されることに、全く未来がないことを意味した。
(それなら、Aグループとの戦いを小説にして、小説家デビューしちまえばいい。俺は元々作家志望なんだ)
単なる内部告発でなく、小説にしてマスコミに騒がれれば、Aグループに与えられるダメージはより大きくなる。
私は図書館に行き、出版社の電話帳をコピーすることにした。
(うわーすごい罪悪感…)
そう。

私の擬装請負体験① - 坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

で述べたように、私は1つの会社で長く勤めるのが最上の価値だとしつけられて育ったのである。
私の中では、会社に忠誠心を持ち、評価されることに自分のアイデンティティを見いだそうとする、従来の私の価値観は既に崩壊していた。しかし従来の価値観に替わる価値観はまだ形成されておらず、元の価値観の残骸が心のあちこちに残り、気持ちを波立たせていた。
憂鬱な気持ちでコピーを取り終ったが、このコピーは当分使わない。
(まずは文章を書かないと)
文章の構成を考えたが、小説仕立てだと、二、三ヶ月では終わらないと思った。
(まずはダイジェスト版でいいや)
そう思って、書き始めた。パソコンは持っていないので、手書きである。

一方で、内部告発の準備もしなければいけないと思った。
まずは雇用契約書である。
例の派遣の雇用契約書はわかるところに保管してある。
(Q社の最初の契約書はないか)
と思って探したが、ない。
(ま、いいか。そのうち見つかるだろう)
戦う決意をしても、当時の私の契約への姿勢はこんなものだった。
次に、クリスタルグループの契約書を探した。
契約書はすぐに見つかった。
(ーーあれ?)
契約書に書かれた字は、消えかかっていた。もう見えなくなっている字もあった。
(まずいな、雨で濡らしたか?)
考えたが、雨で契約書を濡らした記憶はない。
(とにかく、持ち歩く必要もないものだから、わかるところに厳重にしまっておかないと)
私は契約書をしまった。

以前に述べたように、私の作業現場では油を大量に使う。
その油は、当然身体に付着するが、その油は、人によっては皮膚に異常を起こすものである。
私は皮膚に異常を起こす方だった。
既に半年以上作業に従事していた私は、一番油がかかる足が発疹だらけで、発疹の上に発疹ができるほどになっていた。とにかく足がかゆい。
足の発疹のことは黙っていた。
知られれば、それを理由に部署異動されかねないからである。
しかしある時、かゆくてたまらず足をかき続けていたら、Vさんに聞かれ、ばれた。
翌日には「医者に行け」とVさんに言われ、医者に行った。自己都合で会社に遅刻したことのない私には、医者に行くことはかえって気持ちを落ち着かないものにした。
さらに翌日、T部長に呼ばれた。
(部署異動の話になるか)
私は警戒した。部署異動になって、仕事に慣れないうちに色々言われて辞めさせられる、などということになりかねない。
「油負けで足に発疹ができているということだが」
T部長が聞いた。
「はい、なんなら見ますか?」
私はやや挑発的に返した。
「いや、見なくていい。医者に行ったんだろ?治りそうか?」
「わかりません。昨日行ったばかりですから」
「そうか。で、どうだ?この仕事やれそうか?」
「やれます」
T部長はしばらく考えて、
「油対策としては、今のところ前掛けと長靴を使ってもらっているが、今の前掛けは長靴までかからないから、長靴までかかる前掛けを買おうと思う。油負け防止のクリームなんかも買おうと思っているが、あれは人によってはアレルギーを起こすから、クリームを買うかどうかは検討中だ。どうだ、これでやれそうか?」
と言って、T部長は前掛けのカタログを見せた。
「ーーはい、やれると思います」
私は言った。腑に落ちないところがあった。
(これが、すぐに人を切ると言われているT部長か?)
T部長がすぐに人を切ると言う噂があることは、

私の擬装請負体験⑦ - 坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

で述べてある。しかし飲み会でT部長の話を聞いたこともあるが、人の甘えに寛容なところもあるようだし、なにより人に怒っているところを見たことがない。
(俺とB社との関係も、恐らく聞いているはずなのに、厄介払いしないのか)
人の噂と自分の直感が食い違った時、私は自分の直感の方を信じることにしている。
(なぜT部長が『すぐに人を切る』と噂されているのか、理由はわからないが、少なくとも俺は、T部長が簡単には人を切らない人だと思うことにしよう。もっともそれで、いざというときに楯になってくれるとも思わないが)
(つづく)

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水瓶座の女