坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

私の擬装請負体験⑱

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

9月になった。
この頃になると、私の心境も変わってきた。
それまでは、なんとか今の地位を確保するための行動であり、それができなければ、今の地位に替わる何かを手に入れるための努力だった。
目的自体に変化があるのではない。
しかし私がどれだけ努力しても、所詮孤独な戦いであり、一人で全てやらなければならない以上、対応が間に合わないところも出てくる。
必ず勝てるとは思わない。しかし逃げようとも思わない。
(たとえこの後の人生を棒に振ろうとも、絶対に戦ってやる)
そう思う最大の理由は、これまでほんの一瞬たりとも、私を含む被害者に報いて事を収めようとしない敵に対する、私の苛立ちがあった。
(敵は少しもスマートじゃない)

「小説」は書き上げ、出版社に原稿を送っていた。
しかしこれが、なかなか取り上げてもらえない。
私は平日勤務なので、出版社に電話するのは夜か土曜日である。それでも結構繋がるのだが、進展しないのはもどかしかった。
クリスタルグループの人数は、三人から二人に減っていた。クリスタルグループの人数がまた増えそうな気配はなかった。
Vさんは私とB社の間に何かあると感づいていて、しつこく聞いてきたので、「会社の秘密を知っている」とだけ答えておいた。
また、Σの代わりに、新人が入ってきた。
(ならば敵が攻撃してくるのは、新人が仕事を覚えた1ヶ月後か)
と思っていると、
「T部長が、新人のことをよく見てろって」
とVさんが言った。
(やはり、簡単に人を切る人の態度じゃないな)

女子Yのことが、気になる。
もう女子Yは、私のまわりで走り回らなくなっていた。
しかし女子Yは、放置しておけば安全だとは思えない。
いざというときのために、なんとかコミュニケーションを取れるようにしたいと思っていた。
近々、飲み会があった。その飲み会で、なんとかしようと思っていたが、人の噂が気になる。
「お前、飲み会行くの?」
Vさんが聞いてきた。
「ならそこで、女子Yと仲良くなればいいよ」
(お、ならVさんの横槍は入らないな)
と思って、意気揚々と飲み会に向かった。


玉砕。


二度声をかけたが、それ以上は身の危険を感じたので止めた。

ある日、私がひとり飯を食おうとファミレスに入ると、
(あれ?)
斜め向かいに、女子Yがいる。
男と一緒にいる。誰かはすぐわかった。同じ派遣の同僚である。
女子Yは、しきりに男と話している。私が店に入って間もなく女子Yに気づいたので、女子Yが先に店に入ったのは明らかだった。
(あーもーいーよめんどくせー)
料理がきて、それも食い終わった。まだ女子Yはいる。
(これでストーカーされてるなんて言ったって無駄だぜ)
そのまま帰ろうかと思ったが、気が変わった。女子Yの席に向かい、
「よう、〇〇」
と声をかけた。女子Yの方は見ない。男はぎくっとした顔をした。
数語話してレジに向かう。
外に出るときに、うしろを見た。女子Yはこちらを見ていた。
翌日、朝礼で女子Yの方を見ると、女子Yが他の女子のうしろに隠れた。
こうして私がいい男気取りで作業に打ち込んでいると、突然、


ぞくっ!!


と、背中に電流が走った。
(まずいーー)
調子に乗りすぎた。女子Yは必ず騒動を起こす。
(謝るかーー駄目だ。余計立場が悪くなるだけだ。女子Yが騒いだときに対処するしかないーー)

9月20日。
「契約の更新をしますんで」
昼休み、Q社の営業Sが言った。もちろん事前連絡があったので、印鑑は持ってきている。
(しかし、おかしいな)
私は思っていた。契約期間の満了は10月末なのである。期間満了まで1ヶ月以上ある。
(契約内容はどうか)
今回も、会社控は請負なのか。今回、私は意識を集中させていた。
契約書が渡された。私はすばやく二枚の契約書を見た。
(ーー同じだ。どちらも派遣の契約書だ)
私は署名し、印鑑を押した。期間は半年。これで私は、法律的に請負扱いされる心配は完全に無くなった。
(ここで攻撃を仕掛けてくると思ったが、予想が外れたか)
と思いながらも、しばらくくびになる心配が無くなったことで少し安心した。
こうして、9月27日付で契約は更新された。

10月になった。
(……?)
わずかな職場の変化に気づいた。女子Yがこない。私の作業場の近くで、女子Yの姿を見ない。
しばらく様子を見ていると、予定表は他の女子が置いて行っているとわかった。
(……)
そして10月4日。
その日は、遅くまで残業が続いた。
この頃、私は胸のポケットに携帯を入れていた。9時頃、この携帯が突然鳴った。
(ーー来たな)
この頃、平日のこの時間に電話をかけてくる人はそんなにいなかった。
携帯を見た。
(やっぱり)
営業Sからの電話だった。
(ーー仕事の最中に電話になんか出られるか)
放置して、そのまま作業を続ける。
(ーー何でだ?)
作業をしながら、私は考えていた。
(くびにする気なら、何で契約を更新した?しかも期間満了の1ヶ月前に)
雇い止めという法律用語がある。
契約期間が定められている非正規雇用では、契約を更新しなければ解雇手続きを取らなくても被雇用者との雇用関係を解消できる。
しかし勤続年数などによっては、契約更新がなされないのを実質的な解雇と見なして、裁判などで争うことができる。
もっとも、私は雇い止めなどという法律用語は知らなかったので、契約が更新されなければお手上げだと思っていた。しかし1年程度の勤続年数では、裁判で争ってもほとんど勝ち目はないだろう。
敵にとって、雇い止めの方が有利なのである。契約を更新して解雇理由をつける方がむしろ面倒になる。
仕事は9時半頃に終り、更衣室で着替えたが、
(こんなところじゃ落ち着いて電話できない)
と思って駐車場に向かい、車の中でも落ち着かず、近くのコンビニの駐車場から電話をかけ直した時には、もう10時近かった。
「ーーあ、今仕事終わったの?」
営業Sは言った。
「ああ、こっちはもう閉めたから」
(『こっちは閉めた?』)
「話があるから、明日営業所にきて」
(営業所に?この派遣先じゃなくて?)
私はとりあえず了承し、電話を切った。
(つづく)

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