坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

『進撃の巨人』を考える③~世界観を知りたい強迫観念が世界観を生み出す

普通のファンタジー作品は、ドラゴンや魔法などの我々に馴染み深い、特に西洋のファンタジーの世界観を導入して、読者をその世界観に入り込ませる。

 『進撃』の世界観の作り方は、そうではない。

 読者は世界観を把握していないために、『進撃』の世界観を知りたいと思う。「壁」には何の意味があるのか。巨人とは何なのか。『進撃』の世界観がわからなければ、読者が没入できなくなるという強迫観念が生じている。

 そこに、世界観を知る鍵が渡される。エレンである。

どうすればいいんですかヤツは!?通常種でも…奇行種でもありません…ヤツは!「知性」がある。「超大型巨人」や「鎧の巨人」とか…エレンと同じです!

 

女型の巨人に遭遇したアルミンがそう推測するが、必ずしもアルミンのように考える必要はない。 読者がアルミンの推測に飛びつくのは、『進撃』の世界観を知りたいからである。

その後もアルミン、ハンジ、エルヴィンが巨人の正体を推測する。『進撃』に没頭する読者が彼らの推測を支え、世界観を明確にしていく。

その世界観は、普通の西洋のファンタジーを導入した作品よりも強固で、輪郭がくっきりしている。早く世界観を知らなければ、没入しきれない強迫観念が、世界観を強固にしているのである。

 ここで注目すべきは、「知性」の有無である。近年若干の作品で、モンスターに極端に知性を感じられず、相互理解不能な作品が増えており、『進撃』もその系列にある。「知性」がモンスターと人間の厳密な区別となっている。

 しかしそれは一時的なもので、推測を重ねることで、ひとつの結論に向かっていく。すなわち、巨人=人間という真実にである。 

しかしこの巨人=人間との推測による世界観の形成には重苦しさもある。 その重苦しさは、仲間を疑うことである。

 仲間を疑い、時に正体を見極める前に仲間を拘束しようとする。その有り様は全体主義的でさえある。

 その有り様に抵抗しているのが、エレンである。 エレンは巨人になれるという以外には、一兵卒にすぎない。

 エレンは兵団への反逆にならない範囲で、可能な限り流れに抵抗しようとする。 エレンは仲間の力を信じたいし、仲間を死なせたくないし、仲間が裏切っていると思いたくない。

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 エレンは組織の歯車にすぎない。組織の歯車にすぎないエレンは、全てを求めすぎ、そして組織の中で敗者になる宿命にある。しかしエレンの中にこそ、読者の求める全てがある。

自分の力を信じても…信頼に足る仲間の選択を信じても…結果は誰にもわからなかった…だから…まぁせいぜい…悔いが残らない方を自分で選べ。

 

というリヴァイの存在により、エレンと冷酷な思考と行動を続けるエルヴィン、アルミンの間にかろうじて均衡が生まれる。この均衡を途中まで保って、ストーリーが続く。

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