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坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

日本型ファンタジーの誕生⑦~アイアムアヒーロー②

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進撃の巨人』(以下『進撃』がマキャベリズム的な冷酷さを打ち出すことで、逆に作品に生命力の強さが打ち出されているのに対し、『アイアムアヒーロー』には自殺が多い。
アウトレットモールで、村井はBB弾が切れると橋から飛び降り、カメラマンの荒木は少年の身代りに、ガソリンをかぶってZQNを道連れに焼身自殺をする。
このような違いが、『進撃』に対して作品の色調の暗さとなっているのは否めない。

しかし、なぜ自殺の話が多いのかを考えるのは有益であり、この特徴が『進撃』にない、『アイアムアヒーロー』の長所となっている。
『進撃』では巨人が襲ってきて人間を喰う。人間は喰われるだけだが、『アイアムアヒーロー』ではZQNに人間が噛みつかれると、噛みつかれた人間はZQNになる。
『進撃』と『アイアムアヒーロー』の設定の違いが自殺の数の差(『進撃』にも自殺はある)になっている。

しかし巨人とZQNの差が、『アイアムアヒーロー』の自殺の多さの決定打ではない。
ZQNに噛まれるのが死なら、自殺しなくても死ぬのは変わらないからである。
この問題に対するひとつの答えは、ZQNになれば人を襲うからである。だから早狩比呂美もしばしば「ZQNになったら遠慮なく殺して」と言う。

しかし、もう1つの答えがある。
アウトレットモールの混乱から逃げる小田つぐみの前に、伊浦が立ちはだかる。
伊浦はZQNに噛まれていないが、感染している。 伊浦は自慰をしながら小田に話しかける。
「話中に、しごくのやめたら?」 と小田に言われても、伊浦は理解できない。
その伊浦が、「奴らZQNが何なのかわかった」と言う。


不老不死ってヤツ?ああ~最高だぁ昭和52ねん生きてるって冬の大三角ぅすばらしいんだろう

 

この脈絡の無さがZQNの特徴だが、ここで伊浦はひとつの強い執着を見せている。生への執着である。

つまり伊浦にとって、生きていればどんな生き方でもいいのである。
しかしZQNは、医学的には死んでいる。ZQNの生き方は、人間の生き方ではないのである。
どんな生き方でも生きていればいいのではなく、ZQNとしての生は拒絶しなければならない。
そう思った者がZQNになるよりも死を選び、感染した小田つぐみも「人間として死にたい」と言って、比呂美に自分を殺すように言う。

ZQNの言葉の脈絡の無さは、『亜人』や『東京喰種』にも共通している。
亜人』の「黒い幽霊」のカタコトは、社会経験の乏しさを表してもいるが、闇の力を具現化した「黒い幽霊」の性質そのものともいえる。
「黒い幽霊」は訓練すれば自分の判断で動けるようになるが、整然と語る「黒い幽霊」は今のところ登場していない。
また『東京喰種』では、喰種を喰ってパワーアップした金木研が、CCGの篠原と戦う時に喋る内容があまりに支離滅裂で、篠原に「今まで会った喰種の中で、一番イカれてやがるね」と呆れられている。
『進撃』には、言葉の脈絡の無さは基本的にない。
巨人は喋らずに、その知性のない表情で、巨人とは何かを語っている。
闇の力は、人を知性から遠ざけるのである。

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