坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

日本型ファンタジーの誕生⑨~『進撃』5.『進撃』に見る「父殺し」

大塚英志はその著『ストーリーメーカー』で、「父殺し」を父との同一化だと主張している。
大塚はジョゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』を論拠にしてそう主張している。
『千の顔を持つ英雄』は、『スター・ウォーズ』にインスピレーションを与えたことで有名な書籍である。しかし私は大塚の言う通りだとは思わない。もしくは説明不足である。ただ今は一応、大塚の意見に従おう。

進撃の巨人』(以下『進撃』にも、「父殺し」がある。
もっとも分かりやすいのが、エレンが父のグリシャを喰って巨人の力を得たことだが、『進撃』の設定では巨人の力の継承=捕食であり、分かりやすすぎる。平凡過ぎるのである。エレンのグリシャ捕食よりは、ヒストリアが父親を徹底的に否定した上で殺したことの方が、よほど「父殺し」らしい行為と言える。

しかし、これだけではないのである。
8巻でウォール・ローゼが突破されたと思われた時、サシャは3m級の巨人に遭遇する。
この巨人は、サシャの父親にそっくりである。

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この巨人には髭がないのだが、口から流れている血が髭のように見える。

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サシャは狩猟民の子で、ウォール・マリアから流れてきた人々を迷惑だと思っている。また農業を嫌い、先祖からの狩猟のみでの生活を続けたいと思っている。
しかしサシャの父は、サシャが他者と関わるのを恐れているのを見抜いていた。
巨人と戦った後、敬語一辺倒だったサシャは、しばしば方言をしゃべるようになる。敬語は、サシャにとって他者との間の壁だった。サシャの他者との壁が解けたのである。

これは父を殺したわけではないが、父と同一化している。

またエレンの「父殺し」も、本当は継承=捕食という単純なものではない。
グリシャの友人のキース・シャーディスはエレンの母のカルラに惚れていたが、カルラはグリシャと結婚した。
エルヴィンとその友人の憲兵団のナイルは、同じ女に惚れていたが、エルヴィンは巨人と戦う道を選び、ナイルはその女と結婚した。
グリシャとエルヴィンは、惚れた女と添い遂げた/添い遂げられなかったという違いがある。
それでも共通しているのは、キースがグリシャに、ナイルがエルヴィンに憧れていたことである。
キースとナイルの憧れの視線により、グリシャを捕食したエレンは、グリシャだけでなく、エルヴィンとも同一化したのである。

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