坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

イオの物語とテセウスのミノタウロス退治

ミノタウロス

カドモス - 坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」


で述べた、カドモスの姉妹エウローペーが牡牛に変身したゼウスに乗せられてクレタ島にたどり着いた物語が、もうひとつの、ゼウスとイオの物語との共通製を持っている。
ゼウスの妻ヘラの神職であったイオにゼウスは欲情してこれを犯す。
その情事がヘラにバレそうになって、ゼウスはイオを牝牛の姿に変えた。
ヘラはゼウスからその牝牛を貰い、100の目を持つアルゴスに見張らせた。
ゼウスはヘルメスに牝牛を盗み出すように命じるが、そのことがバレたので、ヘルメスは石を投げつけてアルゴスを殺した。
イオは開放されたが、ヘラがイオを追って虻を放ったため、イオは虻から逃げなければならなかった。
イオは小アジアからヨーロッパに渡り、さらに各地を逃げ回った。イオがヨーロッパに渡った海峡は、「牝牛の渡歩」という意味でボスポラス海峡と呼ばれるようになった。今のイスタンブールがある海峡である。
最後にイオはエジプトに渡り、この地で人間の姿に戻り、エバポスというゼウスの子を生んだ。

イオの父についてはいくつか説があるが、一説にはアルゴスの創建者アルゴスの子イアソスであるという。
イオを監視したアルゴスアルゴス王アゲノルの子である。そしてアゲノルとは、エウローペーの父フェニキア王アゲノルと同じ名である。このアルゴス王アゲノルもまた、アルゴスの創建者にして王であるアルゴスの孫である。
どういうことだろう?フェニキア王のアゲノルは、逃げた娘を探す父だった。どうやらイオも、父に類する者に監視される存在のようである。
またハンガリーの神話学者カール・ケレーニイは、イオの物語とカドモスが牝牛を追って、牝牛が倒れた地にテーバイを建設した物語との共通性を指摘している。
カドモスが追った牝牛には、白い満月の模様があった。月はゼウスの娘のアルテミスを表している。

クレタ島で、エウローペーはゼウスとの間に、ミノス、ラダマンテュス、サルペードーンという三人の子をもうけた。つまりエウローペーは、ラビリンスで有名なミノス王の母である。

エウローペーはゼウスの三人の子を生んだ後、クレタ王のアステリオスの妻となった。
アステリオスの死後、ミノスは自分が王位を継ぐことを主張し、サルペードーンと争い勝って王位についた。
ミノスは王位継承の証として、ポセイドンに牡牛を送ってくれるように祈り、送られた牡牛は生贄として捧げると誓った。
またも牡牛である。しかしポセイドンは了承しミノスに牡牛を送った。
ところが、ミノスは牡牛があまりにも美しかったため、その牡牛の代わりに別の牛を生贄にした。
怒ったポセイドンは、ミノスの妻のパーシパエーに、牡牛に対して恋情を抱くようにした。
牡牛に恋心を持ったパーシパエーは悩み、アテネ出身の大工ダイダロスに相談した。
ダイダロスは木製の牝牛の張りぼてを作り、パーシパエーはこの牝牛の中に入って牡牛との想いを遂げた。
やがてパーシパエーは、頭が牛の怪物ミノタウロスを生んだ。ミノスはダイダロスに迷宮ラビュリントスを作らせ、ミノタウロスを閉じ込めた。
ミノスはアテネと戦争をして勝利し、アテネに毎年七人の少年少女を貢ぐことを約束させた。少年少女はミノタウロスの食料として生贄になった。
3年目の生贄が出される時、アテネの王アイゲウスの子テセウスが、ミノタウロス退治のために敢えて生贄の一人となった。
クレタを訪れたテセウスに、ミノスの娘アリアドネが恋をする。
アリアドネテセウスを助けようと思い、ダイダロスに相談する。ダイダロスアリアドネに、テセウスに短剣と魔法の毛糸を持たせるように告げ、アリアドネはそれに従う。
アリアドネは魔法の毛糸の片端を持ち、テセウスにもう片端を持たせた。
テセウスミノタウロスを短剣で刺した後、魔法の毛糸を手繰り寄せてラビュリントスを脱出した。
テセウスアリアドネナクソス島に立ち寄るが、ディオニュソスアリアドネをさらい、自分の妻にする。
アリアドネに知恵をつけて迷宮を脱出させたことに怒ったミノスは、ダイダロスをその息子イカロスと共に塔に幽閉する。
ダイダロスは鳥の羽を蝋で固めた翼を作り、イカロスと共に塔を脱出する。その際ダイダロスは、「蝋が湿気でバラバラにならないように海面に近付きすぎてはいけない。それに加え、蝋が熱で溶けてしまうので太陽にも近付いてはいけない」とイカロスに忠告した。しかしイカロスは、太陽に到達できるという傲慢さから高く飛び、太陽の熱で蝋が溶けて墜落死した。ダイダロスだけはシチリアにたどり着き、カミーコス王コーカロスに保護された。
ミノスはダイダロスを捕まえるために各地を放浪し、シチリアダイダロスを見つけた。
ミノスはコーカロスに引き渡しを要求したが、コーカロスはミノスを風呂に入れ、コーカロスの娘がミノスに熱湯をかけて殺し、ダイダロスを守った。

ミノタウロスは本名ではなく、本名はアステリオスという。ミノスの義父のアステリオスと同じ名である。
ギリシャ文学専攻者の呉茂一によると、アステリオスはゼウスの異名である「アステロペーテース(雷光を投げる者)」と同じ名であるという。
ミノタウロスはゼウスの孫になるから、頭だけが牛ならいいのかと思えば、テセウスがゼウスそのものを殺した訳だ。神殺しである。そしてミノタウロスとは「ミノス王の牛」という意味である。
テセウスミノタウロスを退治したが、アリアドネを奪われた。この場合アリアドネをさらったディオニュソスはゼウスの代理であり、、神殺しは認めてもその恋愛は成就させなかった。
テセウスに知恵を授けたダイダロスは、その代償として息子のイカロスを失うが、その代わりミノス王を殺す。

ミノスとミノタウロステセウスアリアドネダイダロスイカロスの物語は、カドモスと悲運に見回れたカドモス王家と対をなす物語である。
運命に翻弄されたようなカドモスの生涯だが、一連の物語群と合わせて見るとカドモスは何かと戦い、何事かを成そうとしているのだとわかってくる。

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