坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

小池田マヤ『ピリ辛の家政婦さん』

f:id:sakamotoakirax:20140514065107j:plainこの巻はやはり「ラ・メゾン・イヤサカ」(以下、「ラ・メゾン」と略)が一番面白い。しかし最初、なぜ「ラ・メゾン」が面白いのかわからなかった。はじめはキャラものだからかと思ったが、どれほど個性豊かなキャラクターを揃えても、それだけで強い感動を引き出すことはあり得ない。やはり構成によるものだと考え直して見えてきたのは、冒頭とラストでテーマが逆転していることである。
「私達は自分さえ良ければそれでいいし、自分でさえもどうでもいいのだ」
この言葉で、「ラ・メゾン」は始まる。舞台は作家達だけが住んでいるアパート弥栄荘。
住人達は協調性皆無、共有のリビングは腐海状態、そこに「存在感のあるブス」な家政婦がやってきて、その強烈な個性で、自分達勝手な住人達をまとめあげていく・・・と思いきや、実は家政婦も自分の好きなようにやっていただけ、まとめる気など最初からなかったというオチで、物語は終わる。このラストに至る過程が、複雑にもつれあった恋愛模様、人間模様があり、それぞれが根本的にひとつになれなくとも、やはりそれぞれが自分の好きなことをするのを認めあっていくという、ヒューマニズムが貫かれており、またこの作者らしく、明るいオチになっている。これが、「協調性・まとまり」から、「それぞれが好きなように」という、たったこれだけのテーマの逆転を面白く読ませているのだ。
ラストでテーマが逆転する作品として、私はこうの史代の「夕凪の街」、山岸涼子の「汐の声」の二作品を知っている。テーマ逆転の手法は、読者の感動を引き出すのに非常に効果的だが、読者にとってはテーマの押し付けという印象もまた与えやすい。しかし「ラ・メゾン」に関しては、テーマがあったことさえも読者は気づかずに無意識にこの構造を受け入れ、気軽に読んで強い感動を受けることができる。小池田は異能の作家というべきだろう。