坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

見えない世相①~核を攻めない人々

今年の世相が見えない。
今年に入ってから、ずっとそう思っていた。


まだ三月であり、今年が始まったばかりなのにそんなことを思うのは、去年の世相の印象が強すぎたからだろう。
2014年がネット右翼の年だったと私が言っても、異論を唱える人はいないと思う。それだけ、去年の世相の印象は強烈だった。しかし2014年ほど世相がはっきりしている年もまた珍しいが、それにしても、今年の世相は見えないのである。
世相とは、単なる事件のことではない。事件なら既に起こっている。一月には、中東イスラム国で日本人二人が人質となり、殺される事件があった。
この事件に対する日本人の反応が私から見れば鈍い。もちろん事件に連日報道され、事件後もイスラム国関連の事件があれば必ず報道されている。ネットにはイスラム国の情報が溢れている。しかし、イスラム国に対して日本人がどのように思っているか、どう対処すべきと考えているかが、数多くの情報の中から読み取れないのである。私の言う世相とは、事件に対しどのような反応をするかで、日本人が現在どのようであるかが表れてくることである。
誤解のないように言うが、現在、イスラム国にどのように対処すべきについては、世界中の全ての国が見えていないと言って過言ではない。イスラム国の問題は、そんなに簡単ではない。しかし解決が困難な問題だからこそ、人はその問題についての知識を深め、解決の糸口を探ろうとするものである。その解決に向けた姿勢が感じられないのである。
当然のことだが、イスラムについての本は出版されている。そこそこに需要があるようで、大抵の本屋では平積みになっている。しかしその平積みも四、五冊程度である。
イスラム国がテーマの本より売れている本があるだけなら、それほどの問題ではないのだが、本屋によっては、イスラム国についての本より、イスラム教についての本の方が高く積まれている本屋もある。もちろんイスラム国を知るために、イスラム教を知ろうという人もいるのだろうが、この場合、イスラム国が問題の核なのに、その核を知ろうとするのを避けているように感じられる。因みに私も、イスラム国関連の本はまだ買っていないのだが。
もっともこの点について、私はそれほど悲観しておらず、イスラム国関連の本は少しずつ売り上げを伸ばしていくと思っている。ただ問題は、イスラム国を知ることが、自分の中に異物を入れるような痛みを感じているように見えることであり、しかもその痛みを避けることが不可能なことである。

イスラム国についてだけでなく、韓国との関係についても、ネット右翼は去年と比べて動きが少ない。
最近ドイツのメルケル首相が、民主党の岡田代表に「従軍慰安婦の問題は解決した方がいい」と発言した後、日本政府を通じて発言内容を否定したことがちょっとした事件になったが、その件でネット右翼が岡田代表に噛みつく内容の記事が一時的に浮上し、すぐに消えた。しかしほぼ同時期に、韓国の朴 槿惠大統領が同様の発言をしているのだが、そちらにはネット右翼は反応していない。
2014には、ネット右翼は韓国との間で事があれば、必ず敏感に反応した。だが今年に入ってから、ネット右翼は相手の核を攻撃するような反応を示せなくなっている。

私が感じている「見えない世相」の原因はいくつかあるが、そのひとつがイスラム国であることは間違いないと思っている。
イスラム国は日本人二人を人質にした時、「日本は十字軍に加担した」と声明を出した。
日本はイラク戦争時に後方支援に徹し、戦争に参加していないという体裁を取り続けた。しかし日本の対応は内輪の論理に過ぎず、その内輪の論理はイスラム国によって破られた。
そしてネット右翼が韓国との問題で核を攻撃できなくなっているということは、2014のネット右翼の言動もまた内輪の論理だったのであり、イスラム国がイラク戦争での内輪の論理を破ったことで、ネット右翼の内輪の論理もまた破られたのである。

私はこの「見えない世相」について考える時、ちょうど10年ほど前の音楽業界のことを思い出す。
『瞳を閉じて』『Jupiter』のヒットの後しばらく、音楽も業界は何がヒットしているのかが見えない状態になり、その後いきものがかりのような「普通さ」を売りにしたアーティストが支持されるようになり、その後アイドルブームになった。
私が「見えない世相」で10年前の音楽業界を思い出すのは、売れ筋が見えない感覚がだぶっているからだが、今の「見えない世相」は、10年前の音楽業界とはむしろ逆ベクトルに向かう過程であると思っている。すなわち、10年前の音楽業界の売れ筋の見えなさが、90年代のアーティストのカリスマ的なスタイルや音楽性自体を「上から目線」と見られて引き下げたのに対し、現在の「見えない世相」は、国際関係についての日本人の目線を引き上げる過程だと、私は捉えている。

この「見えない世相」は、間隔を開けて、シリーズとして何度か記事にしていくつもりである。
もちろん、2014年に噴出した問題が、この「見えない世相」によって完全に消え去ることはなく韓国との関係は当面改善しないだろうし、従軍慰安婦の問題でも、ネット右翼は韓国と争っていくだろう。ただそれが、2014年ほどに過激化することはなく、一時的に過激化しても、早期に沈静化するようになっていくだろう。
だから2014年のように一年中ネット右翼が騒いで、従軍慰安婦についての誤報の訂正が遅れたというただひとつのことで、ひとつの新聞社が何ヵ月にも渡って攻撃されるような、つまり2014と比べて全く世相が変わっていないことがはっきりするようなら、私は謝罪文を掲載したうえで、このシリーズの記事を破棄するつも

りである。

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