読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

私の擬装請負体験⑤

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

派遣は期間従業員だから、雇用契約の更新はしょっちゅうある。
クリスタルグループでは、三ヶ月ごとに契約が更新されていた。
F所長との間にも、二、三回契約の更新で、契約書が渡されたが、ある契約の時、違和感を感じた。しかし、その違和感が何なのかは分からなかった。

「リーダー会議で、Eがリーダーに任命された」
と、N氏が言った。
(なったか)
リーダー会議は、私のような平の社員は出席できない。
元々人事権は所長にあり、そして正式にEがリーダーに任命された。この通達には、文句のつけようがない。
「部署Cでたった三人も仕切れなかったEがリーダーなんてできるわけないだろう」
N氏は不満そうに言った。この人事で、N氏はI班の派遣のリーダーから外されていた。
「…なら私が、Eさんをリーダーから引きずりおろしてやりますよ」と私が言うと、
「君には権限はないんだよ」
N氏が言ったが、私は無視した。

部署Lは、ひとつの部署の中に五つの工程があり、その他に様々な作業がある。部署Cでは工程が二つしかなく、しかもひとつの工程を覚えてからもうひとつの工程を覚えるという手順で作業をしていたが、部署Lでは五つの工程を一度に覚えさせられた。
結論から言えば、向いてなかった。時間をかけれはまだしも、私にはその時間がなかった。

派遣社員Eは、派遣の連中のご機嫌取りを始めた。部署Lに冷水機を置いて、暑い時に飲めるように提案したり、自分の作業着のお古を派遣社員に与えたりした。
(無視無視)
冷水機は部署Cにある。あえて部署Lに冷水機を置くことはない。
すると、今度は派遣だけの朝礼でEが話をしたり、I班の派遣だけの会議で、所長がEに積極的に話をさせたりした。
(既成事実作りか)
これも無視した。
それでいて、EはI班では、リーダーとしての権力を行使しない。

一ヶ月たった。
私は相変わらず仕事になじめず、しょっちゅう失敗していた。そんな時、
「坂本くんを部署Cに戻すって」
と、N氏が言った。
私は警戒した。今部署Cに戻ったら、もう一度同じことが繰り返される。
と思ったら今度は「坂本を部署Cに戻すな」という話になった。
(ーーは?)
訳がわからないので詳しく聞いて見ると、
「まだ三ヶ月経ってないから戻すな。三ヶ月経ってから戻せ」
とK課長が言ったというのである。
私はK課長の気質を考えた。
(ふーん、三ヶ月というのがひとつの目安なんだな。その目安にこだわるところは、一見論理的なK課長らしく見える。しかし肝心のなぜ三ヶ月なのかがわからない。この話は擬装されているな)
しかしなぜこのような話になったのか、その意図はいまいちわからなかった。
ある飲み会の時、
「坂本、お前の文章難しい。抽象的」
と、K課長が言った。
(そうか、俺に文章を書かせるように所長に言ったのはK課長か。所長相手だからぐだぐだの文章も多いんだが、あれを俺の実力ととられるのは不本意だな)
などと、少し不遜に考えたりした。

(Oさんはどうしてるかな)
と、この頃私は何度も考えたた。
Oさんとは元部署L所属の派遣社員で、私と入れ替わりで部署Cに異動した人である。
(OさんがEについて文句を言ってくれれば、俺も楽なんだがな)
Oさんは寡黙な人だった。
(もっともEがOさんをいびってるとは限らない。俺と仲が悪いのに、Oさんと仲が悪くなるのは、Eにとって不利だ。まともな思考ができる奴なら、そう考える。またOさんも、Eとの間に何かあっても、自分の立場を良くするために黙っている可能性がある。まだ仕掛けられる時ではないな…)
私は失敗続きで、ある時は、クレーンで釣った物を、クレーンのかけ方が甘くて落としたりした。幸い、怪我人はいなかった。
今でこそこんなことがあれば、自分の問題としてより仕事量が適正かを疑問視する私だが、この時は自分を責めた。N氏はこのことを上に話さなかったが、N氏と中の悪い人が朝礼で暴露した。
(全く)
N氏が上に話さなかった理由は、なんとなく分かっていた。
このところ、私が失敗続きだったからである。しかも所長は
「どんな小さなことでも報告しろ」
と、常に派遣社員に言っていた。
私は、この意見に賛成である。所長以外の人が言ったならば。
(これって、社員をくびにするための材料集めだろ)
そう思っていたが、所長が運営のための情報収集をするのを止める手立てはない。
(いや、ある。ひとつだけ)
部署のリーダーには、上に報告する報告を選別する権利がある。
所長は現場を知らないが、部署のリーダーは知っている。だから現場の側として、報告すべきでないと判断したら、リーダーは報告しなくていい。ただし他の派遣社員からの報告を止めることまではできないが。
今回のクレーンから物を落とした事故も、再発の恐れがあればN氏も報告する。N氏から報告がいかなかったのは、再発の恐れがないと当面判断していたことを意味する。
部署のリーダーに報告内容を選別する権限がないならば、リーダーがいる意味がない。
そういう内容の文章を書いて、所長に渡した。
「もう文章を書かなくていい」
文章を読んだ所長は、それだけを言った。
(わかりやすい人だ。しかしいいのかね。K課長も読んでるものを)

部署Lに異動して、二ヶ月が過ぎた。
「君の仕事の内容は良くない。しかしあと一ヶ月は様子を見る」
所長が言ってきた。
(つまり一ヶ月経ったらくびにするかもってことね。ならそらそろ動きますか)
服主任Jのところに行って、
「Eさんってリーダーなんですか?私は連絡係だと聞いたんですけど」
と言った。
「ああ、リーダーってそういう意味なのか」
と服主任Jは言って、そのあと対して意味のない話をした。
(よし、この調子で)
さらに二、三人、役職者に話をした。
噂は広がった。
「Eさんがリーダー会議に現れたって噂が立ってる。俺はその場所にいなかったんだけどね」
と、Mくんまで言い出す始末。
(よく言うよ!!)
私は内心吹き出していた。
さらに、OさんがEにいびられていることをいい始めた。
(ああ、やっぱこんなもんなのね)
私は鼻で笑った。
(つづく)



古代史、神話中心のブログ「人の言うことを聞くべからず」+もよろしくお願いします。