坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

私の擬装請負体験⑰

シリーズ一回目から読みたい方はコチラ↓


  1. sakamotoakirax.hatenablog.com

2008年、夏。
私のいる部署は冷房がないので、入口の扉を開け放しにしている。それで涼しくなるとは言わないが、苦情を言わずに作業できるくらいにはなっている。
クリスタルグループがR社にやってくるという時からの一時期に比べれば、まだしも平穏な日々である。だが私は、
(静か過ぎる)
と思っていた。この静けさが怖い。
(気を抜けない)
開け放した入口の先に、短い渡り廊下があり、その先に総務室がある。
横から一人の男が渡り廊下に入り、総務室に向かっていく。
男の顔は見えない。
男は、扉を開け放しにしてから、同じようにして総務室に入っていく。
(ありゃどう見ても所長だろ?)
R社で私に話しかけてきて以来、所長は私のいるところには顔を出さない。
なお、Mくんが辞めたことで、私がB社を訪問する直前に、R社でのクリスタルグループの人数は二人から三人に増えていた。このことがクリスタルグループの拡大に繋がるという危惧が、私のB社訪問の動機のひとつになっていたのだが、それ以来、クリスタルグループの人数は増えていない。

B社訪問以来、ネットカフェに頻繁に通って擬装請負について調べていた。
それで擬装請負が派遣労働者に対する犯罪だと、始めて知った。
「小説」の方は、まだ書きあがっていなかった。もう少しで完成する予定で、出来上がったら出版社に電話しようと思っていた。

ある時、社長が私の部署に来た。B社、R社双方の社長を兼任する人物である。
(この人は、社長か……?)
社長の顔を何度も見ている私が、社長だと認識できないほど、その表情は険しかった。
社長は、Vさんをずっと注視していた。
(Vさんを俺と間違えているのか?それとも俺のの顔を知った上で、俺から顔をそむけているのかーー)
私は、社長が私のことを知っていると確信した。
部署の状況も、良くない。
(ーーあっ)
私の造っていた製品が、壊れた。
(このところ、どうも調子が良くない)
たびたび失敗している。失敗は誰でもあるが、この頃の私は、少し多かった。
隣に、同僚のΣがいる。
Σは、悠々と仕事をしている。
Σは大きなものを扱っている。大きなものは時間がかかるため、時間に余裕ができる。
私は小さなものを扱っているため、すぐに機械を止めて、細かな作業をしなければならない。
別に、役割分担でそうなっているのではない。
Σが、大きなものばかり取っていくのである。ここ数ヶ月のクリスタルグループやB社、R社とのやりとりをどう思ったのか、Σは私がB社と繋がりがあるため、私が優遇されていると思ったらしい。
非常にめんどくさいが、この誤解、解くわけにもいかない。
Vさんとは相変わらず関係が良くない。
「上からもお前かやってねえって言われてるんだ」
と言われる始末。
(こういう時は、耐えるしかない)
そう思って、黙々と仕事を続けていく。
(ここまで努力しても、何ら報われないかも知れねえなあ)

そんなある日、VさんがΣに小さいもので仕事をさせたら、Σは失敗した。
(ほらな、でかいものに慣れると、小さいものができなくなるんだよ)
その次の日、Vさんに聞かれた。
「なんで最近失敗が多いんだ?B社とのゴタゴタが気になってるのか?」
「いや、それが原因ではないと思いますけど」
この時期、私はB社やクリスタルグループとの関係が、仕事に影響しているとは思わなかった。というより安定した環境を知らなすぎてわからなかった。
「上からは、お前の方が仕事やってるって言われてるんだ」
Vさんが言った。
(なんだ、全然違うじゃん!!)
「Σもでかいやつばっかりやってて楽してたから、鍛え直さなきゃならないしーー」
Vさんなりに、職場の建て直しを図っているのがわかった。
そのうち、VさんからΣが、「夜のお仕事」に行くため、ここの仕事を辞めると聞いた。
(ホスト?いやできねえ顔だとは思わねえけど)
と思ったら違った。夜勤専属の工場勤務をするらしい。
(とすると新しい人材を入れて、その人材がある程度仕事ができるようになるのを待って、その間二ヶ月くらいか。なら敵が攻めてくるのはそのくらいだな。堪え性のないやつらだから)

「お前、機械を動かしている間は、そこから動かないようにな」
とVさんに言われたが、どうにも落ち着かない。
(手が遊んでいる間に、何かできることはーー)
と思って棚などを見に行こうとすると、
「動くなって言っただろ!!」
と怒られる。
私は憮然としたが、そのうち失敗しなくなった。
(ーーそうか、俺は今までの仕事でも、充分に落ち着いてなかったんだ」
気持ちが落ち着いてくるとまた色々なことに考えをめぐらすようになる。
(ーー総務ってなんだ?服主任Jは現場に人事権がないって言ってた。Vさんもクリスタルグループのことでは、総務に話せって言った。総務が人事や派遣会社参入の権限を握っているのはわかるーーあれ?俺はなんで総務のことなんか考えてるんだ?)
私は、考えるのを止めた。
(つづく)
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水瓶座の女