坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

犬が人間になり、時間が逆戻りする『八犬伝』

南総里見八犬伝結城合戦で落ち延びた者達の忠義の物語であり、それを阻む玉梓の呪いと犬士達の戦いの物語である。

八犬伝』を読んでて一番辛いところは、犬塚信乃の許嫁浜路が網乾左母二郎に殺されるところだろう。

犬山道節は浜路の異母兄だが、ちょうど浜路が殺される場所に居合わせて左母二郎を討つが、浜路の母は道節の父の妾で、道節とその母を殺そうとし、それが露見して母親が殺された経緯がある。つまり道節は浜路の肉親でも、浜路を救う筋合いがない。

道節は寂莫道人肩柳という行者を名乗って火定、つまり火の中に身を投じて死ぬのだが、道節は火遁の術が使えるので死ぬことはなく、いわば詐欺で人から金を巻き上げていた。ちょうどその場に浜路を拉致した左母二郎が通りかかって、道節は左母二郎を討つ。

しかし道節は、構成上は浜路と共に死んでいるのであり、火定は道節の死を意味している。浜路は母親の因縁によって死ぬが、そのことは浜路自身に罪があることを意味しない。そのことを、浜路が死ぬ前に道節が死ぬことで表現している。

最初の頃の八犬士は実によく危難に遭う。犬塚信乃は古河公方足利成氏に、足利持氏の形見の宝刀村雨を返上しようとしたが、村雨は左母二郎によりすり替えられており、信乃は間者と疑われて追われる身となる。

犬川荘助も自分を引き取って育てた蟇六夫婦が殺されるとその仇を打つが、かえって主人殺しの濡れ衣を着せられて処刑されそうになる。

犬田小文吾は妹と妹婿を失う。小文吾の妹婿の山林房八は八房を逆にしたもので、妹の沼藺は犬を逆にしたもの、二人とも犬というわけだ。二人の間には犬江親兵衛が生まれるが、名詮自性により本性は犬で、八房はやはりまだ前世の因縁を引きずっており、二人の犬の夫婦が自らの命と引き換えに犬塚信乃を救うことで功徳を積む。

姨雪世四郎は犬塚信乃の飼い犬だった与四郎と同じ読みで、やはり犬を暗示する。

過去に犬山道節の乳母の音音(おとね)と密通し、十条力二郎、尺八が生まれるが、世四郎は音音とは結婚しない。後に矠平(やすへい)と名乗っている。これは人間の名だが、本性が犬なのに名前だけ変えて人間になろうとするのは良くないらしい。

矠平と力二郎、尺八は犬川荘助救出のために動き、力二郎、尺八は死ぬ。しかし魂魄は母の住む荒芽山に行き、息子の願いにより、矠平と音音は正式に祝言を挙げる。すると矠平は再び世四郎を名乗るようになる。力二郎と尺八にはそれぞれ曳手(ひくて)、単節(ひとよ)という妻がいたが、世四郎と音音が祝言を挙げると、曳手と単節は奇瑞により、夫なくして子供を生み、それぞれの子供に力二郎、尺八と名付ける。「力二・尺八」は八房の字を解体したもので、八房の生まれ変わりを意味する。こうして犬が人間になっていく。

庚申山で、化け猫が犬村大角の父の赤岩一角に変身し、大角の妻の雛衣に、妊娠中の胎児を要求する。雛衣は妊娠していたのではなく、大角の礼の玉を飲み込んで妊娠していたように見えていただけだった。雛衣が腹に刃を突き立てると、腹から霊玉が飛び出して化け猫を撃つ。それは伏姫が自ら腹を割いて、霊玉が八方に散ったのを思い起こさせる。

浜路姫(里見義成の五の姫)の育ての親、四六城木工作の後妻夏引は、武田家家臣の泡雪奈四郎と密通している。これは神余光弘の妾の玉梓が、山下定包と密通していたのを思い起こさせる。

この頃から、犬士達の運命が好転し始める。犬塚信乃は四六城木工作殺しの嫌疑をかけられるが、甲州の大名武田信昌は賢明にそれを見抜き、犬士達を陥れようとした者達を逆に成敗した。以降、犬士達は濡れ衣を着せられてもすぐに嫌疑が晴れたり、捕縛される前に逃してもらったりするようになる。玉梓の呪いが薄れてきたのである。

呪いが薄れて、八房を育て、玉梓の里見家への恨みが乗り移った狸、八百比丘尼妙椿が姿を現す。ほぼ時を同じくして犬江親兵衛も登場し、ラスボスと真打の戦いとなる。

この戦いの最中に、政木狐が千人の旅人を救い、龍となって昇天する。

これは結城合戦での結城落城の後、三浦半島で白龍の昇天を見た里見義実のエピソードと重なる。つまり時間が遡っているのである。玉梓の呪いは完全に消え、八百比丘尼妙椿も親兵衛に討たれる。こういう小説的技法はよくあるものである。

そして扇谷上杉定正が、里見を敵として関東大戦を起こす。これは結城合戦の弔い合戦である。

 

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