坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

田中角栄、バブル、そして憲法

稀にみる金権政治により日本の政治史にその名を残した田中角栄立花隆はその著『田中角栄研究』で「もし、その金力が少しでも衰えたりすれば、金力でつなぎとめられていた部下は、たちどころに離反する。金力は即効性はあるが、持続性において欠けるからである。しかも、金力行使者に敬服しながら従っていたのではなく、軽蔑しながら従っていたにすぎないからである」と、マキャヴェッリの言葉まで引用して批判したにもかかわらず、角栄の悪徳は、長い間伝説となり、政治家のひとつの理想像とも見なされた。
角栄の異様さは、角栄自民党を離れた後も、なお自民の最大派閥の領袖であり、「キングメーカー」「闇将軍」と呼ばれたことである。どんな組織にも体裁というものがあり、体裁を考えた場合、絶対にできないことがある。「闇将軍」として角栄が君臨していた頃の自民は、完全に常軌を逸しており、またそれだけ、角栄は必要とされていた。

角栄は、汚職の摘発によって倒れたのではなかった。
角栄を倒したのは、病気だった。
ここで注目して欲しいのは、角栄が病に倒れた時期である。1985年2月。同じ年の9月にプラザ合意があり、日本はバブル経済に突入していく。
角栄の没落とバブル経済が関係ある?
寡聞にして、角栄とバブルの関係を指摘した意見というものを私は知らない。
また、プラザ合意が主にアメリカの経済事情によるものであることもわかっている。
しかし、プラザ合意がアメリカの経済事情によるものだからといって、プラザ合意に始まるバブル経済が、日本の事情によるものでないとは言い切れない。
角栄の金権政治は、主に土地転がしによってカネを生み出していた。
バブル経済も、主に土地投資、つまり土地転がしによるものだった。
私は、角栄の没落と、バブル経済を関係ありと見る。それは、角栄の没落により、政治家全てが角栄化したということである。

なぜ角栄の没落が、政治家全ての角栄化を招いたのか?
この問いは、なぜ政治家にそれだけカネが必要だったのかという問いに直結している。
当時、自民は55年の結党以来、単独過半数をとる与党だった。
自民の天下の最大の要因は、高度経済成長だった。経済成長による収益を地方に配分することで高い集票力を維持していたが、70年代に安定成長期に入り、地方に収益を配分するのが困難になった。
そのような時に、角栄の集金能力は重宝がられた。そして角栄が倒れると、全ての政治家が角栄のようになって、カネを集めてばらまくしかなくなった。

しかし問題は、なぜそこまでして、自民が政権を維持しなければならなかったのかである。

当時の最大野党は社会党だった。
社会党は護憲を掲げ、非武装中立、つまり自衛隊違憲としていた。一方自民は自衛隊を合憲とする憲法解釈を採っていたが、すでに当時から、自衛隊違憲であることは、小学生にさえ常識だったのである。しかも国民のほとんどは護憲派である。

日本の保守本流であり、与党である自民が、憲法解釈の点からいえば、国民に全く支持されていないーーこれが、自民の政治家達の焦りになっていた。
国是において、完全に背反している自民の政治家達は、カネで選挙民をつなぎとめること以外のことを、ほとんど考えなかった。そして協調介入で意図的に円を吊り上げ、輸出競争力を殺してまでも世界中の資本を日本に投資させ、再び大量のカネを日本中にばらまいていった。

しかしやがて、バブルは崩壊する。今度こそ、本当にばらまき型の政治はできなくなった。
このことは、金丸信の事件が象徴している。
佐川急便から五億円のヤミ献金を受けたとして告発されながらも、二十万円の罰金で済んでしまったこの事件は、結果として自民の大敗、細川連立内閣の成立へと繋がっていく。もう国民は、政治腐敗を許さなかった。
そして日本の政治は、「失われた二十年」と言われる時代に突入していった。

なお、バブル経済については、経済史的には中程度のバブルだという意見もある。このような意見に答える力は、私にはない。その意味で、この記事自体がたたき台である。

それにしても、憲法が経済にまで影響を与えていたとは、実に興味深い。