坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

日本型ファンタジーゲームの誕生➉〜原神 スメール編

『原神』の国スメールは熱帯雨林と砂漠の国で、インドや中東などのをモチーフにしている。
スメールの象徴となる言葉は「知恵」で、草神クラクサナリデビの領域である。
『原神』の主人公旅人がスメールに入って初めて会うのはハイパシアだが、ハイパシアは旅人達を無視して行ってしまう。

ハイパシア



旅人がハイパシアの後を追うと、ハイパシアは洞窟の中でパラハァムの香を焚きながら瞑想をしていた。
旅人は香の匂いを嗅いで倒れる。
夢の中で、旅人は大きな木を見る。そして「世界が……私を……忘れて……」という声を聞く。
旅人が目が覚めると、ガンダルヴァー村という所で、ティナリという者に保護され治療を受けていた。ティナリの話だと、旅人はこのまま旅を続けるのは危険であり、環境に適応できるようになるための治療が必要とのこと。



ティナリはアビディアの森で活躍するレンジャーのリーダーで、旅人達はティナリの弟子のコレイと知り合いになる。コレイもレンジャーだが、魔鱗病という風土病を患っている。



魔鱗病は皮膚に鱗が生え、症状が悪化するに連れて体が思うように動かせなくなり、やがて死に至る。
コレイは幼い頃、魔鱗病を治療できると誘われてファデュイに引き渡された。コレイはその時のことに強いトラウマを感じていたが、その時魔鱗病の進行は確かに抑えられていた。
旅人はレンジャーの仕事を手伝って、ティナリやコレイと行動を共にするが、そこで「死域」の存在を知る。「死域」は森に広がり、植物を死滅させていく。
旅人がパラハァムの匂いで危険な状態にならないことを知ったティナリは、旅人が夢で見たのが世界樹だと告げる。
世界樹にはあらゆる出来事が記録されているが、世界樹もまた「死域」に侵されていた。
そんな時、ハイパシアが3日も何も口にしていないのがわかって、非常食を届けることになる。
ところがハイパシアのところに行くと、そこにはアランナラという種族がいて、旅人に夢を見せた。
そこはスメールの熱帯雨林な植生のようで、ふとしたはずみにテイワットの別の国、稲妻の世界に入る。
何度か同じことを繰り返して、旅人はファデュイの執行官、散兵スカラマシュの幻影を見る。

散兵



かつて散兵は3度裏切られた。
「1度目が神、僕の創造者、僕の母」
「2度目が人、僕の家族、僕の友人」
「3度目が同類、僕の機体、まだ羽翼の生え揃わぬ鳥」
「人は信用できず、神は憎しみを与えるから、僕は全て諦め、人の世の一切を否定し嘲笑う」
「僕の空っぽな部分は、生まれたばかりの真っ白な巻物のような、神性に満ちた思考なる神の心で満たされる」
「君達の時代は……今終わる」
その後旅人はアビスの使徒と戦う。「お前は片割れの兄妹に見捨てられた。お前の旅は無駄だ」と告げるアビスの使徒をはねのけて、旅人は現実に戻ってくる。

旅人はなぜパラハァムの香で倒れたのだろうか?
その理由は、修行自体が正しい知識を得る道に至っていないからである。旅人はそれを最初に直感で感じている。
学者は断食など、本来の欲望に逆らう方法で修行をしている。人間の何かを捻じ曲げて、誰かにとって都合のいい人間に仕立てようとしている。
アランナラが旅人に夢を見せたのは、ハイパシアの意識が散兵とつながったからである。そしてアビスの使徒を登場させ、旅人の兄妹に捨てられたとアビスの使徒に告げさせることで、修行の内容に悪意があることを旅人に伝えている。しかしハイパシアの意識が突然散兵とつながった点については注意が必要である。

旅人達はスメールシティに向かう。クラクサナリデビに会うためだが、草神についての情報を持っている者はいない。
先代の草神マハールッカデヴァータはカーンルイアの災厄で死んだとみなされており、クラクサナリデビの存在はマハールッカデヴァータの死を証明していた。
ラクサナリデビは新しい草神となったが、生まれたばかりの草神の知性は人間の子供並でしかなかった。現在のスメールを実質的に統治している教令院は失望し、クラクサナリデビをスラサタンナ聖処に閉じ込めた。そのためスメールの民は、未だにクラクサナリデビよりもマハールッカデヴァータを信仰していた。
スメールシティでは、街に入る際アーカーシャ端末というものを渡されていた。アーカーシャ端末はスメールの人々の知識を集合し共有できる。しかしクラクサナリデビについての情報はない。
しかしクラクサナリデビを知っている者がいた。それがドニアザードとニィロウである。

ドニアザード



ドニアザードは生まれた時から魔鱗病で、幼い頃から魔鱗病からの延命のためだけに行きてきて、感情が表に出ない性格だった。しかしある時夢の中でクラクサナリデビに出会い、悔いのないように生きることを教えられ、クラクサナリデビの信奉者となる。ニィロウはクラクサナリデビの誕生を祝う花神誕祭で花神の舞を踊ろうとする。ドニアザードとニィロウは花神誕祭の実現に向けて奔走する。

そして花神誕祭の当日。
旅人達はドニアザードと一緒に過ごし、ドニアザードがエルマイト旅団に襲われたところを、ドニアザードの両親に雇われたディシアが助ける。そして夜、花神の舞をニィロウが踊ろうとしたところで教令院に止められる。



こうして花神誕祭の1日が終わったと思うと、翌日になったと思ったプレイヤーは、花神誕祭がまた繰り返されているのに気づく。旅人は繰り返しに気づかず、ただ既視感を感じている。
旅人は既視感から逃れようと、居酒屋に入って見慣れない料理を食べるなどしてみるが、やはり以前に経験した感覚がある。そして大して頭を使っていないのに、頭が異様に疲れる。
旅人が既視感から逃れようと試行錯誤を繰り返している時に現れた人物、旅人はその人物を追っていく。その人物は幼い少女の姿だったが、その人物こそクラクサナリデビ、個人名ナヒーダだった。



ナヒーダは旅人達に、これまで何度花神誕祭が繰り返されたかを思い出させる。そしてそれを「輪廻」と言い、この「輪廻」の謎を解き、「輪廻」を終わらせなければならないと言う。
ナヒーダの隣には、ドニアザードが倒れていた。この花神誕祭の「輪廻」は人々の脳に負担がかかり、体力のない者は倒れるという。ドニアザードが倒れた代わりに、ナヒーダはドニアザードに似た無気力な人形を用意して、普段通り行動させていた。
花神誕祭が繰り返されるたびに、毎度ドニアザードが襲われ、ディシアが撃退する。そのたびにディシアは毎回傷を負っていた。花神誕祭の企画に費用が足りないのが発覚した時に、ディシアは使い馴染んだ大剣を売って費用に当て、新しい剣を使っていたからだ。しかしある時から、ディシアはケガをしなくなる。新しいはずの剣が手に馴染んだからだ。
この世界は「輪廻」をしていない。
これで花神誕祭は終わるんじゃないかと、旅人達は考える。しかし翌日以降も花神誕祭は続く。
旅人達は、現実に毎日花神誕祭が繰り返されていると考える。アーカーシャ端末でスメールシティの情報を収集し、その日に使ったお金などはその日の終わりに元に戻され、その上で記憶を消される。スメールシティの資源ならそれが可能であると。
しかしディシアは旅人の意見を否定する。
ディシアは旅人に、自分が剣の修行で使っている棒を見せる。
棒には無数の傷がついているが、同じ現実が毎日繰り返されているなら、この棒も毎日、同じ傷をつけられたうえで取り替えられなければならない。
ところがディシアが言うには、剣術の流派にはそれぞれ癖があり、その癖が傷跡からもわかる。毎日新しい傷が、元の傷に似せられてつけられたうえで取り替えられたとしても、ディシアにはそれが自分がつけた傷ではないとわかる。
「輪廻」はしておらず、時間は進んでいる。しかし花神誕祭は現実の世界で起こっているのではない。
旅人は今まで、スメールシティの外に出ようとしたことがなかったと気づく。
ナヒーダにそのことを話すと、ナヒーダは過去に2回そのことを話したという。しかし2回とも、スメールシティを出ようとして戻ってこずに、ナヒーダにも結果について話さなかったという。
しかしナヒーダは、「神の缶詰知識」を使って旅人達に全ての記憶を思い出させているはずである。それなのに旅人達にスメールシティの外に出ようとした記憶がない。ナヒーダは意思のない者に主体的に働きかけることはないため、旅人達が街の外に出ようとした結果を伝えなかったのは気に止めなかったが、記憶をなくしているのはおかしいと思う。
そこで、旅人は街の外に出るが、パイモンは残って旅人を目で追うことにする。しかしパイモンの目の前で旅人の姿は消え、翌日、旅人は街の外に出た記憶を失った状態で現れた。
ナヒーダはアーカーシャ端末に細工をして、旅人の声が残るようにして旅人に渡す。
アーカーシャ端末に残った旅人の声で、街の外にはいくつもの世界があり、そこには人形のような人がいて、やがていくつもの世界は消え、旅人の後ろにまたいくつもの世界が現れ、1日が終わることを知った。
以上のことから、旅人はこの花神誕歳が繰り返される世界が夢の中であると推測する。そしてこの夢の主は、自分が夢の主だと自覚すればこの世界で何でも思う通りにすることができて、「輪廻」する花神誕祭を終わらせることができる。
旅人は夢の主がニィロウであると突き止め、ニィロウが花神の舞を踊り、花神誕祭の「輪廻」を終わらせるのに成功する。

ナヒーダは花神誕祭が繰り返されるのを「輪廻」と言う。また、スメール人は大人になると夢を見なくなる。夢を見なくなるのが知性を持った証だとみなされる。
ところがスメール人は、夢をアーカーシャ端末によって吸い取られていた。花神誕祭の「輪廻」で吸い取られた夢は散兵を神にするために使われていた。
夢を見るのは非理性的な行為のように思わされながらも、実は最もエネルギーがあり知的なものが夢であった。
スメール人は先代の神のマハールッカデヴァータを信仰し、クラクサナリデビに関心を持たない。
しかし花神誕祭が夢の中で何回も繰り返され、その夢を吸い取られたことは、スメール人が実は今のクラクサナリデビに期待しているということである。
「輪廻」とは、この場合「宿命」と言い換えてもいいかもしれない。
「宿命」とは、我々にとって重苦しいものとしてのしかかってくる。しかしその重苦しさをごまかすために、大抵は何らかの希望でカムフラージュされている。しかしその希望に手が届くことはまずない。希望は「宿命」に基づくシステムの重苦しさをごまかすために、かりそめに与えられたものだからである。そうして「宿命」に順応した者を、スメールでは知性のある者としているのである。
アーカーシャ端末はメディアか、より発達していてもインターネットだろう。そこには膨大な知識があるように見えて、事実膨大な情報がありながら、人々に与えられる情報は管理されている。情報は膨大でも偏りがありその点情報不足だが、人々は与えられた情報に満足し自分で考えようとしない。

教令院の陰謀を突き止めるため動いていた旅人達とナヒーダはしかし、ファデュイの博士に行手を阻まれ、旅人達はナヒーダと別行動になる。
旅人達は、砂漠の血のアアル村に辿り着く。砂漠地帯はスメールの国内だが、砂漠の民は草神よりもキングデシェレトを信仰している。キングデシェレトは草神のような「俗世の七執政」ではないが魔神であり、昔マハールッカデヴァータと争ったと言われており、現在は死んでいるが、砂漠の民の間では近く復活すると信じられている。砂漠の民は草神を嫌い、キングデシェレトが復活して戦争が始まるのを望んでいる。
散兵、ナヒーダ、砂漠の民には共通点がある。いずれも見捨てられた存在である点である。スメールシティには砂漠の砂を防ぐための防砂壁がある。砂漠の民はアーカーシャ端末を持たされることも少なく、教令院の学者となる機会も限られている。
学者が修行の過程で狂ったと判断されると、狂学者としてアアル村に追放される。しかし狂学者は過去にアアル村の問題を解決したことがあり、村人は敬意を込めて、狂学者をグラマパラと呼んでいる。
アアル村には教令院の書記官のアルハイゼン、同じく教令院の大マハマトラのセノがいた。マハマトラは教令院の規則に違反した者を裁く役職であり、大マハマトラはその筆頭で、教令院に何らかの陰謀があると思ったセノは、その調査のため、教令院から離れて独自に行動していた。

 



アルハイゼンもセノも教令院の人間だから、どちらか一方、または両方が教令院の陰謀に関与しているのではないかと、アルハイゼンとセノの関係はかなりギクシャクする。そこに元々砂漠の民であるディシアが加わりさらにギクシャクするのだが、それでも消えたグラマパラを探すという、新しい課題に一行は取り組む。
消えたグラマパラの1人は、昔魔鱗病の治療を行っていた病院で見つかった。そこには人間の脳から知識を抽出して「神の缶詰知識」を作る機械があり、グラマパラの脳から「神の缶詰知識」が作られていたことがわかる。
アルハイゼンはアーカーシャ端末に演算機能があり、セノの行動が予測されていると推測、セノが元いた場所に、グラマパラを誘拐した者が存在すると考える。そしてその場所には、エルマイト旅団の1派閥のリーダーのラフマンとディシアがいた。ラフマンは教令院と組み、キングデシェレトの復活のためという嘘で言いくるめられてグラマパラを拐っていたのである。



ディシアはグラマパラを返せば右腕をくれてやると提案、ディシアの腕を斬って持ってくるようにラフマンは部下に命じるが、寸止めによりディシアの右腕は無事。ラフマンはグラマパラを引き渡すと宣言。
ところが翌日キングデシェレトの霊廟の傍らでラフマンと待ち合わせすると、グラマパラを1人しか連れてきていない。怒ったディシアがラフマンに飛びかかると砂が崩れ落ちて、一行は霊廟の地下へと。
キングデシェレトの霊廟なのに草神の力が満ちているのに気づいた一行は霊廟を探索、奥底に残されたある祭司のメッセージがそこには残されていた。
マハールッカデヴァータとキングデシェレトは争っていたと伝えられていたが事実はそうではなかった。
1000年以上前、「禁忌の知識」が侵食し、砂漠の国を滅ぼしかけた。マハールッカデヴァータはその権能で「禁忌の知識」の侵食を一時的に食い止めた。
しかし侵食は再発し、キングデシェレトは自己犠牲で国を守ろうとし、マハールッカデヴァータは力を使い果たし幼子の姿になるまで解決のために尽力した。
この真実を知ったラフマンは考えを改め、スラサタンナ聖処に幽閉されたナヒーダの救出に協力することになる。

まず旅人とアルハイゼンが教令院に乗り込む。
アルハイゼンは大賢者アザールに疑われており、アルハイゼンはアザールに襲いかかって逮捕される。
次にニィロウが、教令院の前で事前告知無しで舞を披露。アザールは「芸術禁止令」を発動し、アーカーシャ端末を通じて衛兵に伝達した。しかしそのデータはアルハイゼンにより、「クラクサナリデビが脱走した」という偽情報にすり替えられていた。
衛兵はニィロウに目もくれずに駆け出していき、手薄となった教令院にセノが乗り込みアザールを捕らえ、衛兵は翻弄されて街中を走らされた挙げ句、ラフマンやディシア達の手で壊滅させられる。
実質上のクーデターが進行している間、旅人はナヒーダと意識をつなげるのに成功し、スラサタンナ聖処からナヒーダを解放する。そして散兵のいるところに向かう。
旅人とナヒーダは散兵と戦う。神の力を手に入れた散兵を倒すことはできない。
散兵がナヒーダの神の心を奪おうと手を伸ばす。しかしそこにあったのは夢境で、ナヒーダは散兵が神になるのに花神誕歳が行われたのと同じ169回の「輪廻」を経験し、これまでの敗北経験を缶詰知識化していた。さらにその缶詰知識をアーカーシャ端末所有者の知恵で検証し、経験と知恵が旅人の脳に送り込まれる。
そして旅人の攻撃で散兵は撃破される。
ナヒーダは散兵の神の心と自分の神の心を合わせて世界樹のマハールッカデヴァータの最期の記憶に辿り着く。
ナヒーダは自分と同じ姿のマハールッカデヴァータと出会い、真実を伝えられる。
500年前に世界樹が「禁忌の知識」に侵された際、マハールッカデヴァータはその対処を行った。
「禁忌の知識」をほぼ完全に駆逐できたが、ごくわずかに駆逐できなかったのは、世界樹と接続し、「禁忌の知識」に汚染されてしまい命が尽きても記憶が世界樹の中に残された彼女自身だった。そのためスメールに「死域」や魔鱗病が発生していた。
「死域」や魔鱗病を消し去るためには、「禁忌の知識」と成り果てた自らを消えるしかない。しかし自分で自分を消すことはできないため、世界樹の中で最も純粋な枝を手折り、自身の「輪廻」として俗世に還した。自らを完全に消すために。それがクラクサナリデビである。
しかし世界樹のマハールッカデヴァータの記憶を消すことは、マハールッカデヴァータが最初からいなかったことにするということである。「世界が……私を……忘れて……」とは、「世界が私をどうか忘れてくれますように」という、マハールッカデヴァータの願いの言葉だった。
ナヒーダは「母」を抱擁し、その権能を使う。マハールッカデヴァータは「娘」の腕の中で消えていった。
現実世界に戻ったナヒーダは、なぜだかわからないのに涙が止まらない。ナヒーダの記憶からのマハールッカデヴァータが消えたのである。
しかしテイワットの外からやってきて、テイワットの法則に縛られない旅人だけは、マハールッカデヴァータのことを記憶していた。
マハールッカデヴァータの記憶が消えると、それに伴って記憶も改竄されていた。ナヒーダがスラサタンナ聖処に幽閉されたのは、500年前にクラクサナリデビが弱体化して失望した教令院が冷遇したからだという風に歴史も変わっていた。しかし旅人はマハールッカデヴァータの遺志を尊重し、その記憶を胸に秘めて封印する。

しかし本当は、マハールッカデヴァータは、自分が忘れられるのを嘆いて「世界が……私を……忘れて……」と言っていたのである。
「禁忌の知識」は、知恵の神ですら理解できない真理であり、忘却への願望である。
「死域」や魔鱗病は、忘却と現実が適合しないことの軋みである。特に体を思うように動かせなくなる魔鱗病は、忘却のために知恵を使い、現実と遊離し頭でっかちになった象徴だと言える。しかし完全な忘却に成功すれば、現実との乖離はなくなり、「死域」も魔鱗病も消える。
教令院はスメールの民を厳しく統制していた教令院にも正義はあった。人々がクラクサナリデビのことをほとんど知らず、マハールッカデヴァータを信仰しながら、花神誕祭でクラクサナリデビの生誕を祝い、マハールッカデヴァータの忘却を望んでいた中で、クラクサナリデビでなくマハールッカデヴァータの復活を目論んでいたのである。その教令院の正義の象徴するのが散兵である。

散兵はテイワットの国のひとつである稲妻で雷電将軍に作られ、涙を流したことで封印される。これが散兵が言った第1の裏切りである。やがて封印が解け、桂木という者に拾われ、数人の仲間と共に、「傾奇者」と呼ばれて人間として時を過ごす。
しかし「御影炉心」という、効率的だが有毒ガスを出す炉をフォンテーヌの技師エッシャーが設置する。「傾奇者」の仲間の丹羽がエッシャーに真相を問いただすとエッシャーは丹羽を殺害、丹羽が仲間を裏切って逃亡したと「傾奇者」に告げる。エッシャーの正体は博士だった。散兵はこれを2度目の裏切りとした。
3度目の裏切りは親を亡くした子供で、家族のように暮らしたが、病で死んでしまった。そして散兵はファデュイの「散兵」となったーー。

捕虜となった散兵は、ナヒーダに世界樹に旅人の兄妹の記憶がないかの確認を依頼される。
旅人の兄妹の記憶は消されていたが、偶然散兵の過去を知った旅人から丹羽の真相を告げられ、
「この世界で、歴史が変わったことはあるかい?」
と旅人に尋ねる。
旅人はマハールッカデヴァータのことを話さなかったが、その様子から答えを察した散兵は姿を消す。その時から、散兵は歴史から姿を消した。
旅人は稲妻に行って歴史を調べるが、散兵に関わって死んだ者達の運命は変わらず、ただ伝えられた「事実」が変わっただけだった。そして旅人は、散兵と全く同じ姿をした者に巡り会う。その者は「放浪者」と名乗った。
旅人は「放浪者」をナヒーダの元に連れていき、歴史改変が起こったことを告げる。ナヒーダは散兵の記憶を創作童話で難読化することで世界樹を欺き、散兵の記憶を取り戻させる。「放浪者」は散兵の記憶を持ちながら、旅人の仲間になる。

古代史、神話中心のブログhttp://sakamotoakiraf.hateblo.jp/もよろしくお願いします。