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(早速戦いの準備だ)アパートに帰り、クリスタルグループとQ社の雇用契約書を探した。
(B社とR社という、Aグループの二社を又にかけた擬装請負事件だ。日本中大騒ぎになるぞ)
まず、Q社との最初の契約書を探したが、見つからない。
私は、最初にQ社と雇用契約をした時のことを思い出そうとした。
(ーーはっきりとは思い出せないが、契約書をもらわなかった気がする…)
クリスタルグループの雇用契約書はすぐに見つかった。
(あったーーあっ!!)
クリスタルグループの雇用契約書は、手書きの部分が完全に消えていた。
(消えるインクを使ったんだ!!)
私はふたつのことを思い出した。
ひとつは、クリスタルグループの契約更新をしたときのことである。
(あの日、何かおかしいと思ってたけど、思い出した。あのとき所長は手袋をしていたんだ!!)
もうひとつは、以前にクリスタルグループの契約書を見たときのことである。
(あのとき、既にインクは消えかかっていたんだ。ちくしょう!!あのアホ所長め、やりやがった!!)
昼、昼食を摂りに食堂に行くと、今まで姿を見せなかったF所長がいた。
所長は、こちらを見ている。
他に、二人の派遣社員がいる。どちらもB社で見た顔だ。
(こいつらか、まあ俺のせいで冷飯食いをしてたから、気分もいいだろう)
そう思って見ると、二人はにやにや笑っている。
(こいつら俺の解雇理由聞いてやがるな!!くそったれめ、目にもの見せてくれる!!)
10月12日、金曜日。
この日、健康診断があった。
この日まで、Q社の営業Sは何度も見かけたが、私の半径3メートル以内にはこなかった。
(あの文章を読んだな)
しかし、私も消耗していた。この日まで、私も格別に動いていない。
(おや)
と思ったのは、私の前に社長がいたからである。もちろん社長とは、B社とR社の社長である。
私が社長のうしろにつくと、
「ああ、どうぞどうぞ」
と、私を前に通してくれた。
「うーん、こうも人が多いと、待ち時間が長いねえ」
と、社長が私に話しかけてくる。
(ーーどういうつもりだ!?)
と思ったが、
「ーー私は、ここの前にB社にいたんですよ」
と言って見た。
「へーそう」
と社長が返す。
「『へーそう』ね、俺がB社に乗り込んだときK課長の反応と同じだな」
私の番になった。内容は血圧検査である。
「ーーおや、血圧がちょっと高めですね。酒やタバコは控えた方がいいですね」
(うるせえよ)
健康診断が終わり、通常作業に戻る。
調子はいまいちである。大きな失敗は犯さないが、体が思うように動かない感じである。
「これだけ仕事ができれば、どこ行っても通用するよ」
とVさんは言ってくれるが、全く気が休まらない。
(全く敵さんもやってくれるよ)
この日までに、なぜ9月中にQ社が契約を更新し、10月に解雇と言ってきたのか、調べはついていた。
労働者派遣法では、派遣社員が同一業務に従事して1年を経過する前日までに同一業務に従事することを希望することを派遣先に申し立て、1年が経過した翌日から7日以内に派遣会社との雇用契約を終了すると、派遣先に直接雇用する努力義務が生じるのである。
(雇い止めにして、俺が派遣会社に抗議すれば、R社に俺を雇用する努力義務が生じる。もっともあくまで努力義務だが、その努力義務も敵さんは負いたくなかった。だから契約を更新してぬか喜びさせた。俺は去年の9月27日に入社したから、仮に契約の更新を同一業務に従事する意思表明としても、1年が経過して7日間、つまり10月3日までに会社を辞めても、R社に俺を直接雇用する努力義務は生じるわけだ。
そして俺を直接雇用する一切の義務が無くなった10月4日に俺を解雇してきた。あざといねえ。企みがばれても全然構わないってか?いや、敵さんは俺が11月5日までの雇用契約書にハンコを押すと思っていたんたから、企みがばれる心配さえしてなかったんだろう。全くやってくれるぜ。やたら細工されまくって、こっちの精神はぼろぼろだよ。しかし)
仕事が終わり、私は作業場内に置かれた、ある物体を見た。
大きな物体である。横巾は1メートル以上ある。
「これは何ですか?」
私はVさんに聞いた。
「水晶だよ」
Vさんは答えた。
(水晶か。きれいじゃないな)
もちろん、まだ加工されていない原石である。それがアメジストだとわかったのは、ずっと後になってからだった。
「なにしろ、月曜日はAグループの70周年記念で、会長がうちにくるからな」
Vさんが言った。
(会長がくるね、この日を狙って内部告発されるって、何で敵さんは考えないんだろうねえ)
(つづく)
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