坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。新ブログ「人の言うことを聞くべからず」+を開設しました。古代史、神話中心のブログです。

エマニュエル・トッド

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エマニュエル・トッドの本を私は一冊も読んだことはないが、Wikipediaを見ると、どれだけすごい人物かわかる。

エマニュエル・トッド - Wikipedia

トッドは家族制度が社会の価値観を決定すると主張し、この価値観から、各国の有り様を説明した。なぜ共産主義が資本主義先進国でなくロシアや中国で実現したのか、なぜ遠く離れた日本とドイツの社会制度が似ているのか、なぜアメリカ人は自由と独立を重視するのか、などである。また1976年にソ連の崩壊を予言し、予言者のように見られた。

 私がトッドに興味を持つもう1つの理由は、イランについてのトッドの見方である。

 イランの核問題は、将来イランが核保有国になる可能性を残しながらも、期限付きの核開発停止で合意した。

 米大頭領候補のトランプ氏は、現在、このような合意をしたオバマ大頭領を批判している、私はもしトランプ氏が大頭領になれば、勢力均衡派のトランプ氏はウクライナの紛争でロシアに有利な条件を呈示してでもロシアと和解し、ロシアと共同でイランに核開発の永久的な停止を迫るのではないかと考えている。

 私の考えが当たっているかは、トランプ氏が大頭領にならなければわからないが、実は私は、トランプ氏のイラン核問題に対する姿勢には賛成しないのである。イランが核を持つことがあってもいいと、私は考えている。 

イラン・イスラム革命以来、イランはサルマン・ラシュディ事件などで、危険なテロ国家と見なされてきた。 しかし現在、イランがそれほど危険な国だとは思っていない。

 親米国だったイラクフセインは、アメリカがイラククウェート領有を認めると読み違えて湾岸戦争を起こし、9.11テロ後にアメリカはイラク大量破壊兵器があると難癖をつけてイラク戦争を引き起こし、結果イスラム国が誕生した。

 親米と反米かを基準とするアメリカの覇権のあり方は、イラクにおいて最も失敗している。 中東のような紛争地帯には、より多様性を認める姿勢で臨む必要があるのだが、アメリカのさじ加減に期待することはできない。

 かといってアメリカを牽制するほどの力は核しかないのだが、これも転覆の危険性のある軍事政権に持たせるわけにはいかない。その点宗教指導者が政権を握るイランは、政権転覆の心配がない。イスラム国との戦いは必要だが、イランならイラク情勢に適度な距離間を持って、アメリカを牽制できる。

 ここは意見が別れるところだろうが、現在の覇権国体制による世界秩序は、親米と反米の区別による多様性の軽視と、核保有国に核を放棄させるのが不可能なために核拡散を止められないことから、いずれ崩壊する運命にある。多様性軽視と核拡散の危険を計りにかけた場合、イランが核を持った方が中東はまだしも安定するというのが、私の見解である。

 そしてトッドは、おそらく少数派であろう私の見解を裏付けてくれている。トッドはイスラム圏の識字率が上がり、出生率が下がっていることから、イスラム圏が欧米に近づいていると指摘し、「近代化の先頭にいるのはトルコではなくイランであることを示し、イスラム脅威論を否定し、イランを正しく見るべき」だと主張している。


 トッドはEUについては、イギリス、フランス、ドイツの移民に対する態度が全く異なることから、心性としての欧州統合は失敗すると予測している。

これは『移民の運命』という本に書いてある。 イギリスのEU離脱を見ると、トッドの主張は当たっているようである。 

はてな村でもイギリスEU離脱を巡って、時代の流れへの逆行だの、また逆にEU崩壊の序曲だのと、様々に取り沙汰されてきた。

 実際のところは、どうなのだろう。 まずトッドは、「心性としてのEU統合は失敗する」と述べている。つまり実質としてのEU崩壊はないということである。

 また一部に、イギリスのナショナリズムな反動と見る向きもあったが、私はこれに賛同していない。 

なぜならイギリスのEU離脱が決定してから数日後に、スコットランド独立の住民投票が決まったからである。つまりイギリスEU離脱の運動と、スコットランド独立の運動は、ほとんど同時進行だったのである。 イギリスのEU離脱後にスコットランドが独立の住民投票を決めた背景も、ある程度察することができる。 2年前のスコットランド住民投票では、スコットランド残留を選んだ。その理由は経済の問題で、残留した方が助成金をもらえるからだった。 

今回の住民投票は、イギリスがEUを離脱した以上、スコットランドはEUに直接加盟できる。そしてEUに加盟すれば、EUから助成金をもらえる。そのようなドイツが悲鳴を挙げそうな理由で、住民投票に踏み切ったのであろう。

 ナショナリズム民族自決は、根本は同じものである。 しかし多数民族のナショナリズムは、少数民族民族自決を抑制しようとするのが基本である。

 現代のイギリスでは軍隊での鎮圧ともいかないので、スコットランドを留める方法は、EUへの残留しかない。

 スコットランドが独立しても、イギリスはEUから離脱したかったのなら、これはナショナリズムの発露とは言い難い。やはり移民の問題なのだろうと思う。

 『移民の運命』は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの移民の受け入れ方を論じたものである。 トッドはあくまで移民の問題で、欧州統合は「心性として失敗する」と述べたのである。移民以外の人々の統合を問題としていない。 

それでは移民以外のヨーロッパ人は「心性として」統合されるのか、されないのか。

 私はやはり国民投票後の、400万票の投票やり直しの誓願に注目したい。 

この誓願については誰かのブログに、アンケート調査ではやり直しを求める人が少ないという記事があり、イギリス人はEUに戻りたくないのだと、そのブログでは結論づけていた。(ブクマをつけていないので、もう誰の記事かわからない) しかし投票で決まったことで、やり直しを求めることが異例なのである。 例えば投票に不正があったなど、妥当な理由があれば、やり直しを求めやすいだろう。しかし妥当な理由がなければ、僅差とはいえ、結果に従うべきだと考えるのが普通だろう。 投票やり直しの誓願の注目すべきところは、数ではなく想いの強さである。

アンケート調査では、残留派の三割がやり直しべきだと答えたとのことである。イギリスの人口が6000万人だから、投票やり直しの誓願をした人と、アンケートで「投票をやり直すべきだ」と答えた人の比率は5分の2である。残留を求めながらも、結果に従うべきだと考えた人のEUへの想いがどれだけ強いかは、アンケート調査からは出てこない。

 これはイギリスがふたたびEUに戻るということではない。イギリスがEUに戻る可能性は四割もないだろう。 しかし離脱したイギリスでこれなら、他のEU諸国はどうだろう。

 EUだって理想的ではなく、経済的には不便もある。私は経済面よりも、EUの安全保障の面を重視している。 しかしそれでもEUは、確かにヨーロッパ人の意識を変えているのである。


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