第二次大戦の連合国のリーダーであるチャーチルは、アメリカが参戦するまでの苦しい期間、地中海作戦によって逆境を凌いでいた。
開戦まもなくフランスを占領し、イギリスを空爆、スカンジナビア、さらにソ連と戦線を拡大していくナチス・ドイツ相手に、チャーチルは正面から戦うのは不利と判断する。
そこで、ナチスの同盟国イタリアが担当する北アフリカに目をつける。
ドイツのように強くないイタリア軍をドイツも支援するが、主力がイタリア軍なのでイギリス軍は優勢に戦いを続け、少しずつドイツの力を削いでいく。
しかしアメリカが参戦し、独ソ戦でソ連が反攻に転じると、地中海作戦の重要度は下がっていく。 連合国が北アフリカを抑え、地中海作戦の目標がイタリアになると、連合国では二つの作戦のどちらを採用すべきかが議論になった。
ひとつは北アフリカから北上してイタリアを占領し、ドイツに迫る作戦。
もうひとつは西部戦線を形成してフランスを解放し、ドイツに迫る作戦である。この作戦は独ソ戦が始まった頃から、チャーチルはスターリンの打診を受けていた。
ドイツ軍に押され続けていたスターリンは、西部戦線の形成によって危機を脱したかったのである。 しかしチャーチルは、スターリンの要求に長く応えなかった。
独ソ戦は1943年のスターリングラード攻防戦の勝利でソ連が反攻に転じ、ノルマンディー上陸作戦によって西部戦線が形成されたのは1944年である。
その間も地中海作戦は継続され、西部戦線と独ソの東部戦線の三方面作戦となったが、地中海作戦を強く推奨し続けたのはチャーチルである。
しかし地中海作戦がイタリア侵攻の段階になると、枢軸軍は山がちなイタリアの地形を利用して何重もの陣地線を敷き、連合軍を苦しめた。 二次大戦の勝敗を決したのがスターリングラード攻防戦とノルマンディー上陸作戦だったことを考えると、イタリア侵攻は余分で、この点でチャーチルの軍事的才能に疑問符がつけられている。
一方で、地中海作戦に固執したチャーチルを評価する声もある。地中海作戦で東部戦線を開かないことでソ連を疲弊させ、ギリシャが共産圏に飲み込まれるのを防いだという意見である。
私は、チャーチルは敵の弱い所を探してたのだと思っている。
ノルマンディー上陸作戦が二次大戦の勝敗を決したのは確かだが、西部戦線こそが大戦初期、ドイツ軍にフランスが圧倒されて早々に崩壊した戦線である。西部戦線形成は失敗のリスクが大きい。
チャーチルが命じる数々の無謀な作戦には帝国参謀総長アラン・ブルック大将やアメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル大将も頭を抱えた。チャーチルの無謀な作戦のために多くの人間が死に追いやられていったが、彼は誰が死のうとほとんど関心を持たなかった。
チャーチルは戦争を騎士道的な決闘ゲームのように考えていたため、栄光を残すためだけにこういう不合理な作戦を平気でやった。
と評価されるチャーチルも、ノルマンディー上陸作戦のような作戦には踏み切れなかった。
チャーチルはその性格とは逆に、戦果が乏しくとも勝てると思う地域を戦場に選んでいたのである。
イタリア侵攻もノルマンディー上陸作戦により戦況が好転しているので、チャーチルの戦略眼が正しかったとは言えない。
しかし将来のソ連との戦いを見据えていなかったとも言えないのである。
チャーチルは自分にソ連を助ける力があるとは思わなかったが、戦況が好転するまでは、独ソで潰し合ってくれることを望んだ。 この場合、チャーチルは主導的に状況を生み出していたわけではないが、状況を利用してはいたのである。
ファシズム、共産主義、そして反植民地主義が、チャーチルの敵だった。
帝国主義者としてのチャーチルの思想は愛嬌と呼べるようなものではなく、インドに選挙制度を与えるべきかという問いにも、
彼らはあまりにも無知なので誰に投票したらいいか分かるはずもない。彼らは人口45万人の村で4、5人が集まって村の共通の問題を討論するような簡単な組織さえ作ることができない身分の卑しい原始的人種なのだ。
と言って反対するほどだった。
しかしファシズムを打倒し、「鉄のカーテン」演説で 共産主義との戦いの道を示したチャーチルも、帝国を守ることはできなかった。
大戦初期、チャーチルはドイツと講和するように閣僚に意見されたことがある。ドイツと戦争をしない方が、帝国の維持につながるというのである。
チャーチルはその意見をはねのけた。しかし大戦でイギリスは疲弊し、帝国の維持は不可能になった。
それでもイギリス人の間でのチャーチルの人気は高い。
ドイツとの講和は、確かに帝国の維持につながるが、帝国が衰退するのを止めることはできない。
ドイツとの戦い、共産主義との戦いは、イギリスに帝国の瓦解と引き換えに、別の「勝った歴史」を与えたのである。
負ける歴史を早々に切り捨てて、「勝った歴史」に乗り換えるという打算が、イギリス人に働いているようである。
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