坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

日本型ファンタジーゲームの誕生④〜『ドラゴンクエストVZI〜幻の大地』:夢に溺れる者は悪夢に滅ぼされる

今回紹介するのは『ドラゴンクエストVI 幻の大地』。このゲームの印象的なのは、物語が魔王の城に挑む直前から始まることである。この時既に多くハッサンとミレーユという二人の仲間がいる。しかし魔王ムドーの幻術により、主人公一行は石にされてしまう。
と思ったら、それは夢だった。と今はそういうことにしておこうwww。
ライフコッドという村で、主人公は目覚める。主人公はその村の少年で、ターニアという妹がいる。ターニアはその年の村祭りの精霊役で、主人公が村の民芸品を売って、村祭りで使う精霊の冠を作ってもらうために街に出かけることになる。
街に行くと精霊の冠を作る職人が留守で、探しに行くと大地に大穴が空いており、その大穴の下から別の世界が見えている。そしてその大穴から職人が落ちそうになっていた。
主人公は職人を助けるが、職人の代わりに下の世界に落ちてしまう。
下の世界では主人公は透明で、下の世界の住人は主人公を見ることも話すこともできない。ある古井戸に飛び込むこと、主人公は上の世界に戻ることができた。
主人公がライフコッドに戻ってくると村祭りが始まるが、精霊役のターニアに突然精霊が乗り移り、主人公が不思議な運命を持っており、主人公に旅立つようにと告げる。
そしてレイドックの城に行き、冒険が始まる。レイドックで夢の中で一緒にいたハッサンと出会い、ムドーを倒すためにラーの鏡を探すことになる。
旅の途中、小屋を建てたらラーの鏡の情報を教えると言う者がおり、ハッサンが小屋造りを軽々とこなしてみせる。自分を旅の武道家だと思っていたハッサンは、なんで大工仕事ができるのかわからない。
小屋を建てたら建てたで、その男はラーの鏡の情報など持っておらず、代わりにダーマ神殿の情報を教えられる。男の言う場所に行くと、その場所にダーマ神殿はなく、大地に大穴が空いている。
その大穴から落ちると、廃墟になったダーマ神殿があり、そこから旅をしてサンマリーノの街に入る。この街でハッサンと同じく夢で仲間だったミレーユがおり、下の世界で姿が見えないはずの主人公達が見えている。
ミレーユは夢占い師グランマーズの館が主人公達を連れていく。グランマーズは主人公達が姿が見えるように、夢見のしずくを取ってくるように言う。夢見のしずくにより、主人公達の姿が見えるようになる。
そしてラーの鏡を手に入れて上の世界のレイドックの城に行き王様に鏡を見せると、王様が女性に変身する。その女性はシェーラと言い、レイドック王が魔王ムドーになっていると言う。
上の世界のムドーを倒しに行き。ラーの鏡によってムドーの幻術を破りムドーを倒すと、シェーラが言った通りムドーがレイドック王になる。
シェーラがレイドック王だと思われていた時は、シェーラは寝ずに働いていた。その理由は夫が不在の間、妻に負担がかかっていたからである。夫のレイドック王は魔王として暴虐の限りを尽くしている。つまりレイドック王がムドーなのは、DVの表現なのである。
そしてレイドック王は城に帰ったが、レイドック城に行くと王もシェーラもいない。
下の世界のムドーを倒すと、グランマーズに主人公達は夢の世界の住人だと知らされる。夢の世界のレイドック王もシェーラも夢の世界の住人であり、現実を生きていない。夢から醒めたから、二人は現実に生きることになり、夢の世界から消えたのである。
自分達が夢の世界の住人とわかっても、自分の体を取り戻した者はハッサンしかいない。(ミレーユは既に自分の体を取り戻している)主人公はこれから、自分の体を探して旅をすることになる。様々な冒険を続けて、主人公たちは現実世界のライフコッドに辿り着く。そしてそこで主人公は自分の体を見つける。主人公の体は石化が解けた後、ライフコッドに辿り着き、ターニアの元に辿り着き、血が繋がらないのにターニアの家に居候していたのだ。まさに妹萌え。「ターニアの優しさに漬け込んでいる」と、ターニアに好意を持っているランドには嫌われている。

しかもこの前に、主人公がレイドック城の王子だということがわかって、現実世界のレイドック城にも入ろうとするが、城の者は主人公に記憶がないためか、王子として十分に認識されず、試しに現実に存在した、主人公のちの繋がった、死んだ妹の名前を尋ねられる。しかし主人公は名前を間違えてしまう。この実の妹の名前を言い当てるイベントには選択肢があるが、必ず名前を間違えるように仕組まれているのである。

これは妹萌えしながら、現実の妹が存在しても名前を忘れるほど妹は気にかけていないということである。

しかしともかく、このライフコッドで主人公は肉体と融合をはたす。

面白いのは、この現場をバーバラが見ることである。主人公に好意を持つバーバラは、本来はヒロイン格である。このヒロイン格のバーバラが、主人公の肉体との融合、いや主人公が妹萌えしている様子を見る。

いや、融合は村の中で行われるから、バーバラが馬車入りしていれば融合の現場を見ることはない。

だから本来主人公の肉体が本来あると思われるムドーの城に乗り込む時、バーバラが同行しないのである。ライフコッドでバーバラが必ず同行するようにするとわざとらしいので、ムドーの城に行くことを拒否することでライフコッドでの主人公の妹萌えの現場を見たことを強調しているのである。とにかくこうして、主人公は記憶を取り戻す。

しかしこの後レイドック城に行くと、主人公は完全に記憶が戻っていないことが判明する。その理由は精神のみでいた時間が長すぎるからだという。
それでも主人公が実体を持って戻ってきたことで、それを祝ってレイドック城ではパーティーが開かれる。
パーティーが終わって主人公は城の中を散策する。
散策する中で、主人公は様々なことを思い出す。
主人公の父である王がムドーを倒すために遠征に出かけ帰ってこないため、主人公が自分でムドーを倒しにいこうと思うこと。
主人公が兵士長のトム(上の世界のソルディ)相手に剣術の稽古に励んだこと。王妃の母が父の代わりに政務を取り、その母を主人公が気遣う様子など。
このようなことを思い出して、『ドラクエ6』にとって夢とはどんなものなのかがわかってくる。
夢とはその人の願望であり、基本的に叶わないもの、または叶えてはいけないものである。下の世界のムドーを倒すと、上の世界の主人公の父は城をハーレムにしている。DVをやめたら女性への願望が膨らんでしまった訳だ。
もっとも叶えていい夢もある。実体を取り戻したハッサンが正拳突きを思い出すのがそれで、一撃必殺のマダンテの呪文をバーバラに教えるカルベローナ、優れた武器や防具をくれるメダル王の城。パーティーの能力を飛躍的に高める職業に就けるようになるダーマ神殿は、全て夢の世界にある。そして最高の職業として勇者がある。
他のキャラは上級職全てをマスターして勇者になれるが、主人公だけは上級職をふたつマスターするだけで勇者になれる。
プレイヤーはそこに主人公の勇者の素質を見るが、主人公は勇者になりやすいだけで、唯一の勇者という訳でもない。後々他のキャラも勇者になったりする。
ドラクエのテーマは「勇者が魔王を倒す」である。しかしワンマンプレーだった『ドラクエ1』や、『ドラクエ2』の攻撃力最強の脳筋王子と違い、『ドラクエ3』では私は脳筋パーティーを作って勇者は体力も攻撃力も防御力も三番手だったし、『ドラクエ4』は勇者の存在感はそれなりにあったが、攻撃力でアリーナに劣るのは否めなかった。
ドラクエ5』からは私はプレイしたことがないのだが、主人公は伝説の勇者の父親で、後半から参入する勇者より、勇者の父親である主人公の方が攻撃力があるのは否めなかった。

この点『ドラクエ6』の主人公は勇者の素質を一番持っているが、だからといって他のキャラより格段に優れている訳ではない。
なんだかんだいって、プレイヤーはその場その場でキャラの役割を楽しんでいる。勇者だからといって一人だけ能力を突出させる訳にはいかない。
次回作の『ドラクエ7』以降、『ドラクエ9』まで勇者路線ではなくなる。『ドラクエ7』では主人公は水の精霊の庇護と宿命を背負ったキャラだが、前半は親友のキーファがパーティーのリード役で、後半は神に仕え魔王と戦った英雄メルビンが登場する。メルビンのとぼけたキャラにごまかされがちだが、メルビンが老人でなければ主人公はメルビンの下風に立たざるを得ない構図である。つまり『ドラクエ7』の主人公は何らかの宿命を負ってはいるが、それは魔王を倒すというものではなく、むしろ主人公が魔王を倒す一番の貢献をしたのが僥倖であったとわかる構図になっている。(『ドラクエ8』以降については勉強不足もあり語らないでおく)

話を戻そう。『ドラクエ6』では夢が叶っていいものもあるが、それは魔王を倒すために叶っていいのである。そして魔王こそが夢の世界を作り出し、人々の夢をも支配しようとしていた。『ドラクエ6』は夢の世界から始まり、現実世界に生きるために魔王を倒すのである。だからハッサンは魔王を倒した後、親の後を継いで大工になる。
ハッサンが実体を取り戻して正拳突きを覚えるということは、現実にハッサンが武道家の修行をしていたということであり、夢に向かって現実に取り組んでいた以上叶っていい夢のはずだが、敢えてこのようにしているのは、あくまで現実に生きてもらうためである。

この点で特に印象的なのが、マウントスノーのゴランの話である。ゴランはは雪の中で倒れているところを雪女のユキナに助けられる。ユキナにはこのことを人に喋るなというが、ゴランはそのことを人にしゃべってしまい、ユキナによってゴランをを除いて村人全てが氷漬けにされ、ゴランは50年間村で一人で生きることになる。

「ワシの50年は何だったんじゃ」とゴランは言うが、その意味は主人公達の手にラミアスの剣が渡ることにあった。宿命をとことん感じさせるエピソードである。これではアメリカンドリームどころか、「分を守って生きろ」と言われているようでなもので、夢への徹底的な拒絶である。

この後主人公達は旅を続け、伝説の武具を手に入れる。
伝説の武具を手に入れると、ヘルクラウド城が現れ、ヘルクラウド城と戦って勝つと城の中に招待され、武人肌のデュランと戦ってヘルクラウド城改めゼニス城を手に入れる。
このゼニス城に乗って天馬の塔に行き、実体を取り戻した主人公達の馬ファルシオンは天馬としてはざまの世界ヘと主人公達を連れていく。はざまの世界に行って驚くのが、主人公達のHPが1、MPが0になっていることである。これでは戦闘もできない。夢を見すぎた者が、魔王に心を支配され無気力になっていることを示すのに、これ以上ない演出である。
伝説の防具職人エンデの道具を現実世界で入手してエンデが希望を取り戻すと、主人公達のステータスも回復する。
そして魔王を倒すために大賢者マサールとクリムトの兄弟を救出すると、二人の兄弟は旅の扉を作り出す能力をフルに使って、強力な波動を魔王デスタムーアの城のある山にぶつける。山は崩れ、デスタムーアの城が落ちてくる。この力をデスタムーアにぶつけてほしかった。
そして主人公達はデスタムーアの城に乗り込み、デスタムーアを倒す。
エンディングで、バーバラは実体を持たないため夢の世界ヘと消える。ヒロイン格のキャラは夢の世界へ帰っていくのである。

ラスボスデスタムーアを倒しても、まだ裏ボスがいる。
全ての職業を一定以上のレベルに上げると、ダーマ神殿の奥にある扉が開き、お楽しみダンジョンに行けるようになる。
お楽しみダンジョンの途中にデスコッドの村があり、ライフコッドの村そっくりである。しかし主人公の家に行くと見知らぬ女性がおり、「もうどうなってもいい?」と尋ねられる。
「いいえ」と答えると「いくぢなし」と言われ、「はい」と答えると、「じゃあ見せて上げる、この村の本当の姿を」と言われて、デスコッドの住民がみんな悪魔になる。
機種によっては、「近い未来」と「遠い未来」のどちらかを見ることができ、それが『ドラクエ4』と『ドラクエ5』の世界だとわかる。これで時系列的に『ドラクエ6 』が『ドラクエ4』より前の世界だとわかるが、なら「伝説の武具は天空の武具だ」などと言われたりするがそれは違う。
伝説の武具はあくまで現実世界のものであり、時系列では最初でも世界線は違うのである。『ドラクエ6』は夢の世界で始まっても、あくまで、プレイヤーが現実を取り戻す物語である。『ドラクエ4』と『ドラクエ5』は夢の世界の物語であり、現実の世界の話ではない。
ここに『ドラクエ6』のキツさがある。夢は叶ってもいい。ただし夢で終わらせずに、現実に叶えるための努力をすれば。
しかし『ドラクエ6』では、人生のために夢が叶う物語はひとつもない。(ただしイリアとジーナ、ジョセフとサンディの話は別で、恋愛だけは別扱いである)

あくまで夢と切り離された現実の世界を生きることが求められるのである。ここまで厳しい世界観を見せつけて、『ドラクエ6』の世界観から「ドラクエ4』、『ドラクエ5』を切り離すのである。

デスコッドよりさらに先に行くと、最深部にシリーズ屈指の裏ボス、ダークドレアムが鎮座する。
ダークドレアムはとにかく強い。私の印象では『ドラクエ2』のシドーに勝るものではないが、デスタムーアを倒した主人公達が手もなくやられてしまう。
それでも頑張ってレベル開けすればダークドレアムを倒すことができる。さらに頑張ってレベルを上げ、ダークドレアムを20ターン以内に倒すと、驚愕のイベントが待っている。デスタムーアダークドレアムの対決である。
これがギャグイベントとまで言われているのは、デスタムーアに対するダークドレアムの圧倒的な強さである。デスタムーアの攻撃はダークドレアムには全く通じないし、ダークドレアムの攻撃は中には9999のダメージを与えるものもあったりする。
そしてデスタムーアダークドレアムの虐待により倒されると、ある城では「魔王を倒したのは勇者ではなかったとか」と言われる。
そうである。夢に溺れるものは終いには悪夢に滅ぼされるのである。それが『ドラクエ6』の最後のメッセージである。

 

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