坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」

「水瓶座の女」の著者坂本晶が、書評をはじめ、書きたいことを書きたいように書いていきます。サブブログ「人の言うことを聞くべからず」+では古代史、神話中心にやってます。 NOTEでもブログやってます。「坂本晶の『後悔するべからず』 https://note.com/sakamotoakiraxyz他にyoutubeで「坂本晶のチャンネル」やってます。

戦争と平和を考えるマンガ⑥∶『キングダム』2〜戦争は理不尽なもの②

李牧の呼びかけにより戦国七雄の六国が同盟して秦に対抗し、合従軍が起こる。
蒙武は楚と対峙する。敵将は汗明、蒙武軍は4万で汗明軍は6万、数で劣勢の上に汗明は名将である。
蒙武は秦でこそその武勇を知られているが、国外では無名である。武を重んじ策を好まない蒙武だが、汗明に当たる際に昌平君から策を授けられ、策を用いる。

最初に2万の兵で斜陣掛けを行い、第二波として浮足立った汗明軍に両端に兵力を集中した1万5000の兵で斜陣掛けを行う。汗明軍の中央が手薄になり、汗明への道が開けたところに5000の兵で蒙武が突っ込んでいく。
蒙武は巨体だが、汗明は蒙武より大きい。
汗明は無敗の名将で、かつての秦の六将王齕をも破ったことがあった。そのことは長い間秦軍に知らされておらず、その話を聞いて秦軍はショックを受ける。
自分が無双と悟った汗明は、戦い自体は「つまらぬ」と言い、自分が強者だと勘違いしている者を正面から叩き潰すのを自らの責務だと思うと言う。
そんな汗明に対し、蒙武は「高揚している」と言う。「好敵手に会えたなどと感傷的なことではない。俺が嬉しいのは、生まれてはじめて全力を引き出して戦う刻が来たからだ」と言う。
蒙武は汗明と、互いの武器から飛び散る破片が敵味方の甲冑を貫いて傷つけるほどの激しい戦いを繰り広げる。
勝負は互角に見えたが、楚軍の軍師仁凹は「大将同士の一騎討ちとは単純な武力のぶつけ合いではない」「積み上げた武将としての“格”の力を双肩に宿して戦うそうだ」「積み上げた“戦歴”汗明様と蒙武では雲泥の差だ」「武才が等しくても、一騎討ちで蒙武が汗明様に勝つことはない」と言う。蒙武は腕を砕かれ、頭に汗明の一撃を喰らう。
朦朧とする意識の中で、蒙武は昌平君の言葉を思い出す。
「積み上げた戦歴、大将軍としての“格”、それらが力となって双肩に宿るとするならば、汗明の武は今の中華で正に最強やも知れぬ。その時お前であっても、汗明は揺らがぬ山に見えるだろう。汗明はお前よりも強い。だが俺は信じている。それを打ち破るのが蒙武という漢だと。お前に理屈は必要ない。この一戦で天下に示せ」

蒙武は起き上がり、渾身の一撃で汗明の腕を砕く。

そして息子の蒙恬が汗明に斬られるというアクシデントがありながらも、蒙武は汗明の頭を潰し勝利する。

名のある名将に対し、無名の武将が挑んで名を挙げるというサクセスストーリーである。
ところが実際には、汗明は武将ですらなく遊説家で、楚の春申君に仕えたが用いられることなく、英才が用いられないことを意味する「塩車の憾(うら)み」という言葉を残している。汗明こそ無名の者である。
「お前に理屈は必要ない」
という昌平君の言葉は、無名の新人を理屈抜きに叩き潰すという横暴さを意味している。名将に打ち勝つというサクセスストーリーね裏には、このようなテーマが仕組まれている。

戦争と平和を考えるマンガ④〜『キングダム』1.戦争は理不尽なもの - 坂本晶の「人の言うことを聞くべからず」


で述べたように、智将に対し理屈抜きの直感型の武将をぶつけて叩き潰すのは、戦争が理不尽なものであることを示すものだった。
そしてここでも、『キングダム』は戦争の横暴さを示した。現実には、智将が腕自慢の武将を打ち破ることはあるし、無名の新人が名将に勝つことも有り得る。むしろ戦争というのは、そういうことが一番起こりやすい分野である。
しかし智将が腕自慢の武将に勝った時、または無名の新人が名将に勝った時、我々は戦争に理性的なものを感じてしまうのである。しかし智将が愚将に勝とうが、無名の新人が名将に勝とうが、戦争は理不尽なものである。『キングダム』はそのことを我々に教えてくれる。

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